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がん治療は進歩し、患者の5年生存率は6割強まで向上した。一方、医療費の支払いに加え、発病をきっかけとした休職・退職による収入減などが課題となっている。このような患者や家族に及ぼす悪い影響「経済毒性」について、愛知県がんセンター(名古屋市)薬物療法部の本多和典医長に聞いた。
がんと医療費
◇高価な新薬
この10年でがん免疫療法薬と呼ばれる新薬が相次いで実用化され、治すのが難しい肺がんなどでも長期生存が期待できるようになった。
だが、その新薬の価格は月70万円前後に上る。実際に患者が負担するのはその1~3割で、一定の金額が後で払い戻される高額療養費制度もある。ただし、治療を長く続けるため費用は膨らむ上、通院費などが加わる。昨今の物価高で生活費もかさばる。
経済毒性とは、米国を中心に海外で問題視されていた「financial toxicity」を本多医長が翻訳した言葉。「がんになったことで、治療費の支出の増加、収入の減少、貯蓄の目減り、精神的な不安が生じます。収入が減り、家族が働きに出なくてはならなくなることもあります」
本多医長が以前に行ったアンケートでは、医師の85%が、患者の経済的理由で治療や検査を行えなかったり、延期したりしたことがあると回答した。「例えば、3週間に1回行うはずの抗がん剤の点滴を間引くと、効果が下がる可能性を否定できません。経済毒性が生存期間に影響を及ぼす恐れもあります」
◇「困っている」とサインを
問題に対応するため、本多医長は米国の経済毒性チェックリストの日本語版を作成した。患者が「毎月の出費に対処することができる」「経済的に苦しいと感じている」など11項目の質問に対し、0~4の5段階で記入する方式。回答を基に経済毒性の程度を把握し、負担の大きい患者が利用できる支援を探ることができる。「高額療養費制度を含めた公的制度、民間の保障制度の情報提供などの支援が考えられます」
その際、病院内の医療ソーシャルワーカーにとどまらず、社会保険労務士、医療分野をカバーするファイナンシャルプランナーら外部の専門職との連携が望ましいという。
また、「話しにくいかもしれませんが、患者さんが『自分は困っている』というサインを医師や看護師、病院の医療相談室に出すとよいと思います」と本多医長は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/06/03 05:00)
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