教えて!けいゆう先生

単なる「好み」じゃない?
~処方する抗生物質はどのように選ぶのか~

 以前、知人からこんな質問を受けたことがあります。

 「抗生物質にはいろいろな種類があるけど、どうやって選んでいるの?」

 「同じ病気でも処方される抗生物質が違うのは、医者の好み?」

 確かに、抗生物質(正確には「抗菌薬」と呼ぶのが一般的)には膨大な種類があります。どのように選択しているのか、疑問に思う人も多いでしょう。

 そこで今回は、抗菌薬の基礎知識についてまとめてみます。

疑問に感じたら、医師に尋ねてみるのがお勧めだ

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 ◇抗菌薬はなぜ使うのか

 まず最も重要なのが、抗菌薬は「細菌感染症の治療薬である」ということです。

 つまり、ターゲットは「細菌」ですので、ウイルスや寄生虫など他の微生物には効果がありません。

 蚊取り線香でゴキブリをやっつけることができないのと同じように、それぞれの敵に特化した武器があるというわけです。

 医師が抗菌薬を処方する時は、すなわち、「細菌による感染症を疑った時」ということになります。

 そこで、次に考えるのが「どの抗菌薬を使うか」です。

 ◇医師が抗菌薬を選ぶ時に考えていること

 一口に「細菌」と言っても、その種類は膨大です。

 ヒトに病気を引き起こす細菌だけでも、数え切れないほどの種類があります。

 例えば、「肺炎の原因となりやすい細菌」がいたり、「ぼうこう炎の原因となりやすい細菌」がいたりして、それらは種類が違うわけです(もちろん同じ細菌が異なる病気を起こすこともあります)。

 前述の通り抗菌薬には膨大な種類がありますが、それぞれに固有の特徴があり、「どのグループのどんな細菌に効きやすいか」が異なります。

 この「抗菌薬が効果を示す範囲」のことを専門用語で「スペクトラム」と呼びます。

 患者さんの病気を引き起こしている細菌として、どんな種類のものが候補として考えられるかを医師は考え、その候補に応じて適切なスペクトラムの抗菌薬を選びます。

 抗菌薬の選択に影響を与えるのは、病気や細菌の種類だけではありません。

 患者さんの状態や病気の重症度、これまでの抗菌薬の投与歴など、さまざまな情報を総合的に考えなければなりません。

 患者さんの中には、通常の抗菌薬が効きにくい「耐性菌」が、病気の原因だと疑われる人もいます。

 そのような兆しがあれば、耐性菌を考慮した抗菌薬を選ぶ必要があります。

 ◇同じ病気に違う抗菌薬?

 さて、最後に「同じ病気なのに処方される抗菌薬が違うのはなぜか」という疑問について考えてみます。

 これには、さまざまな可能性が考えられます。

 まず、同じ名前の病気でも想定される細菌が異なるケースがあります。例えば、腹膜炎を引き起こす細菌だけでも、その種類は何十とあります。同じ「腹膜炎」でも、ターゲットが違えば選ぶ抗菌薬も違うのです。

 また、大きな分類では同じ病名であっても、実は細かな分類では異なる病気で、異なる治療が必要だというケースもあるでしょう。

 加えて、ほぼ同じスペクトラムの抗菌薬が複数あり、その中から「その病院で採用されている薬が選ばれた」という可能性も考えられます。この場合は、「どちらの抗菌薬でも良かったケース」です。

 以上のように、抗菌薬の処方一つとっても、その背景にどのような意図があるかについては、さまざまな可能性が考えられます。

 疑問に思ったら、不安なまま薬を飲むよりも「AとBの抗生物質は、どんなふうに違うのですか?」と、聞いてみるのがお勧めです。(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計20万部超。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。

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