2024/12/24 12:48
日本国際保健医療学会第43回西日本地方会のご案内
Brain 2024年 7月 31日掲載
研究成果の概要
中村勇治研究員 (名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児科学分野 、嶋田逸誠講師 (同細胞生化学分野) 、加藤洋一教授 (同細胞生化学分野 、齋藤伸治教授(同 新生児・小児科学分野 、 村上誠教授 東京大学 大学院医学研究科 疾患生命工学センター 健康環境医工学部門 、 尾崎紀夫 特任 教授(名古屋大学大学院医学研究科精神疾患病態解明学)、有岡祐子特任講師(同上) 、本田瑞季助教(広島大学大学院統合生命科学研究科情報生理学研究室・京都大学大学院医学研究科 創薬医学講座)、沖真弥教授(熊本大学生命資源研究支援センター・京都大学大学院医学研究科創薬医学講座 らの研究グループは、慶應義塾 大学、 九州大学・ 理化学研究所、横浜市立大学、自治医科大学、 宮城県立こども病院、University College Londonら などの研究者と共同で、 これまで診断が難しかった神経難病の疾患において、遺伝子解析と3次元培養モデルを組み合わせることで、新たな疾患メカニズムとその治療法開発の可能性を示しました。
研究グループはまず、 診断が難しかった発達性・変性てんかん性運動障害性脳症 を 伴う 神経難病患者において、 PNPLA8遺伝子 に変異 を発見しました。 iPS細胞から3次元培養の脳オルガノイド モデルを作成し、 PNPLA8遺伝子の 機能喪失 により、 ヒト特異的神経幹細胞 が少なくなり、 脳のサイズが小さくなる メカニズム を 明らかにしました。 さらに、 大規模遺伝子解析・脂質解析により、神経幹細胞 が正常に分化できず 、 神経産生に異常があることを明らかにしました。 欠乏していたリン脂質を添加することにより、ヒト特異的神経幹細胞の数が回復することを明らかにしました。本研究成果は、 神経難病 の診断に役立つ 新規 基準になるとともに、 新規 治療法開発につながると期待できます。この研究成果は2024年 7月 31日(日本時間)に英科学誌「 Brain」で公開されました。
【研究のポイント】
・ 診断が難しかった 小児神経難病 の 責任 遺伝子の 特定
・ 脳オルガノイドを用いて、 小児神経難病 の原因となる神経幹細胞の制御メカニズムの解明
・ 新規診断基準の構築と新たな治療法開発への貢献
【背景】
小児 の希少疾患 には、診断が難しいものがたくさんあります。 患者の 全 遺伝子解析 を行って も 、 原因と考えられる遺伝子 変異 の 発見 は難しく、ど の遺伝子が本当に重要なのか、 脳に どのよう な 影響を及ぼしているのかについては、解明が難しいです。研究グループは、 診断が難しかった 発達性・変性てんかん性運動障害性脳症 を伴う 患者の遺伝子を 解析して 、 iPS細胞 から 作成した3次元脳培養モデル(脳オルガノイドモデル)を利用して、 責任 遺伝子と 疾患メカニズムを解明しました。
【研究の成果】
研究グループは、 12か国の国際共同研究で、 PNPLA8遺伝子が、「 発達性・変性てんかん性運動障害性脳症 DDEDEと命名) 」の 責任 遺伝子であることを明らかにしました。この疾患は、 PNPLA8遺伝子の 機能喪失の程度 により 軽症型 から 重症型へと変化し、重症型では 、 脳のしわができず小頭症となることを明らかにしました。 軽症型では、歩行困難などの症状を示すことを明らかにしました。PNPLA8を欠損した iPS細胞 と患者由来の iPS細胞から脳オルガノイドを作成しました。外側放射状グリアと呼ばれるヒト特異的神経幹細胞の数が減少し、神経産生が減少していることを明らかにしました。これらの結果は、患者の脳のしわの形成や小頭症の症状を引き起こす原因である可能性を示唆します。大規模遺伝子解析(光単離 化学 法)と大規模脂質解析( リピドミクス解析 を行い、 リン 脂質代謝の異常が神経産生へ影響を及ぼしている 可能性を 明らかにしました。さらに、足りない リン 脂質を補い、外側放射状グリアの数が 回復できることを明らかにしました。
【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】
これまで診断が難しかった神経難病の疾患において、遺伝子解析と3次元培養モデルを組み合わせることで、新たな疾患メカニズムとその治療法開発の可能性を示しました。今後は、さらなるメカニズムを明らかにし、様々な動物モデルと組み合わせることで、新たな治療法開発へと結びつけます。
【用語解説】
PNPLA8:リン脂質分解酵素であるホスホリパーゼ A2ファミリーのひとつであり、カルシウム非依存性ホスホリパーゼ A2γとも呼ばれる。 リン脂質を加水分解してリゾリン脂質や遊離脂肪酸を生成し、細胞膜のリモデリング、ミトコンドリア機能の維持、酸化ストレスへの保護、脂質中間体の生合成などを調節する。
脳オルガノイド:iPS細胞や ES細胞などの多能性幹細胞から作成される、脳を模倣した3次元培養モデル。様々な脳部位を作成することが可能で、疾患メカニズムの解明に使用される。
外側放射状グリア:ヒトや霊長類に豊富に存在する神経幹 細胞の一種。脳の拡大や脳のしわの形成に重要な 幹細胞 である。
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学大学院 医学 研究科
住所:愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
【報道 に関する問い合わせ】
名古屋市立大学病院管理部経営課
愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
E-mail hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp
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