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世界的に高い水準を維持してきた日本の外科医療。最先端の外科手術の発展にも大きく寄与してきた。医療技術の進歩により高齢化が進展し患者が増え、腹膜炎や腸閉塞等、外科医にしか治せない緊急性の高い手術は依然として多い。その一方で、若手医師の外科離れが加速している。日本消化器外科学会の試算では10年後の消化器外科医数は現在の4分の3に減少し、20年後に半数となる。外科医療の危機的状況を脱するためには、女性外科医の活躍が欠かせない。ジャーナリストの田原総一朗さんは女性にも指導的立場に就く機会をつくることで男女ともに働きやすい社会を実現するという。外科医療における現状と対策について、田原さんと河野恵美子医師が議論を交わした。
◇外科離れが加速する理由
河野 若手医師の外科離れが進んでいて、外科診療が危機的状況にあることをご存知ですか? 実は、外科医の平均年齢は50歳を超えています。現役医師が引退し、このまま若い医師の外科離れが進むと、診断から1カ月以内に受けられていた手術が、3カ月以上待たなければ受けられなくなる可能性もあります。地域によっては外科医不在で緊急手術に対応できないといったことも起こり始めています。手術を待っている間にがんが転移したり、緊急手術を要する患者の状態が悪化するなど、今まで助かっていた命が助けられなくなってしまうかもしれません。
田原 それ本当なの? いや、知らなかった。外科医は医師の中でもステータスが高く、花形と言われていたが、若い人はどうして外科を選ばなくなったの?
河野 最近の若い人はワークライフバランスを重視し、時間が不規則な仕事を避ける傾向にあり、外科医の労働環境に問題があるというのが大きな要因の一つです。
2022年に10大学医学部754人を対象にアンケートを行い、「診療科を選択する上で労働環境は関係するか」という質問をしました。すると、9割以上の学生が「関係する」と答えています。若い人は、崇高な仕事と分かってはいるけど、長時間・不規則な労働を強いられる外科を自身の生涯の仕事にするには難しいと考えています。
それから、専門医資格の取得に時間がかかる割には生涯労働期間が短いこと、給与が勤務量に見合っていないこと、医療訴訟のリスクが高いことなどもあります。事実、外科領域における24年4月研修開始の専攻医登録結果を見ますと、5人以下の都道府県が13、10人以下となると、半数以上を占めており、地方で深刻な状況となっています。
◇外科医を志しても二の足
田原 使命感ややりがいだけでは済まされないほどの激務ということ?
河野 19年時点で、病院常勤勤務医の約4割が過労死ラインである年960時間超の時間外・休日労働を行うなど、わが国の医療は医師の長時間労働によって支えられてきました。特に外科は医師全体の中でも最も労働環境が厳しいと言われており、「主治医は全ての責任を負い、24時間365日対応すべきである」という倫理観の下、土日もスタッフ全員で回診することも日常でした。
18年9月に開催された「第9回医師の働き方改革に関する検討会」で、日本外科学会は20~30代の外科医の約4割が年間3000時間超の時間外労働を行っていることを報告しています。これらは日進月歩の医療技術、より質の高い医療やきめ細やかな患者に対するニーズに応え続けてきた結果ですが、自身の時間を確保したり、子育てとの両立となると相当難しいですよね。
私が卒業した01年は医学部卒業と同時に専攻する科で働くという環境でしたが、04年から新臨床制度が始まり、2年間いろいろな科を回ることになりました。初期研修の2年で、過剰な労働量、治療上の責任が重い、訴訟のリスクが高い、徒弟制度が根強いなどの外科の現場の厳しさを目の当たりにしたら、いくら素晴らしい職業であっても二の足を踏むのは理解できます。
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