現代社会にメス~外科医が識者に問う

女性の地位向上、カギは政治主導のクオータ制
~田原総一朗さんに聞くー外科医不足問題~

 ◇外科医の報酬は適正か

 田原 労働環境や待遇を改善すれば外科医は確保できる?

 河野 そう思います。外科医ですと、手術はもちろんのこと、術前検査、手術説明、摘出標本整理、術後管理、外来、化学療法、緩和医療、診断書や介護保険、生命保険などの書類作成、院内の委員会や勉強会の担当など非常に多くのものを担っています。さらに昔と比較すると、外科医が不足していることに加え、手術の低侵襲化に伴う手術時間の延長、高齢者の手術件数増加があります。高齢者はさまざまな併存疾患を有しており、周術期の管理も大変になっています。ですから労働時間の上限規制の話だけではなく、本質的な議論である、いかに1人当たりの仕事量を減らすかということを考えなければなりません。

 給与の問題も重要です。どの科も大切な科だとは思いますが、自身が行う手術が生命に直結し、夜間に緊急手術を行ったり、重症を担当したらなかなか家に帰れなかったりする外科医と、一方で定時に帰れてすぐには生命に直結しない患者を担当している医師との給与に大差ないというのは見直す必要があると思います。

 ◇待遇が改善されない理由

 田原 手術の診療報酬が低すぎるということ?

 河野 外科医へのインセンティブ付与を目的に2014年に休日・時間外・深夜に行われる緊急手術や処置に対し、大幅な加算の増額が行われました。しかし、増収分は本来の目的には使われず、「病院の赤字補填」に使用されるなど、外科医のインセンティブとして反映されていないのが現状です。23年に消化器外科学会で実施されたアンケート結果で、緊急手術に関するインセンティブは「病院全体で導入されている」が22%、「病院全体ではないが、消化器外科に導入されているが」が5%で、合わせると28%という結果です。

 古いデータになるのですが、12年に日本外科学会が診療報酬改定後の病院としての勤務医師労働環境改善方策に関するアンケート調査というのが実施されていて、外科医に特化した改善策を行わない理由として、「他科とのバランスを考えると外科系だけに待遇改善は行えない」と他科とのバランスが多く、次いで「医師の待遇改善に回すだけの余裕がない」と続いています。病床規模別に見ると、規模が小さいほど「処遇改善に回すだけの余裕がない」という原資不足を理由として上げるケースが多くなっています。 

 ◇女性外科医は増加傾向

 田原 女性医師は増えている?

 河野 私が外科医になった頃は消化器外科の女性の割合は4%でしたが、今は7.7%にまで増え、30歳未満の会員(日本消化器外科学会?)に限定すると、女性の割合は20%に達する時代になりました。

 田原 女性のトップはどのくらいいるの?

 河野 日本消化器外科学会の認定施設代表者数1003人に対し、女性は8人です。

 田原 女性外科医が指導的立場に立てないのはなぜ?

 河野 まず、厳しい労働環境が挙げられます。 20、30代の労働環境は過酷です。女性外科医の第一子出産平均年齢は33.1歳、二子は35.3歳です。日本は「男は仕事、女は家庭」という意識が強い国です。女性外科医も家事・育児の主な担い手であることが多く、配偶者の職業は約半数が常勤医師です。それに対し、男性外科医の配偶者は66%が専業主婦です。子供を持つ男性外科医の常勤は93.1%・非常勤が5.8%であるのに対し、女性外科医の常勤は72.0%・非常勤が21.0%であるのが現状です。非常勤の立場では手術執刀や責任ある仕事は任せてもらえず、本人の意向とは関係なくキャリアの一線から退くことになります。

 次にジェンダーバイアスです。われわれの研究グループはNational Clinical Database(NCD)を用いて、消化器外科医の男女別手術執刀機会について調査しました。その結果、女性は男性より1人当たりの執刀数が少なく、その差は高難度の術式で顕著でした。高難度手術の技術習得は昇進に直結するため、手術経験の差がキャリアに大きな影響を及ぼしていると考えます。また、日本外科学会が実施した「全国外科医仕事と生活の質調査」によりますと、仕事ならびに昇進の差別感は女性が強く感じていることが分っています。


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