現代社会にメス~外科医が識者に問う

女性の地位向上、カギは政治主導のクオータ制
~田原総一朗さんに聞くー外科医不足問題~

 ◇今もなお「子育ては女性の仕事」

 田原 2021年5月にジャーナリストの長野智子さんが女性議員たちと「クオータ制」導入を目指す勉強会を発足し、僕はその後押しをした。クオータ制とは議員や選挙候補者の一定比率を女性に割り当てる制度で、世界では130の国と地域で採用されている。なぜその必要性を感じたかというと、世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数が日本はOECD諸国の中で常に世界最低水準で、向上しないからだね。

 海外では英国のサッチャー元首相、ドイツのメルケル元首相、台湾の蔡英文前総統、韓国の朴槿恵前大統領、米国ではハリス副大統領、ニュージーランドのアーダーン元首相といった多くの女性リーダーたちが活躍している。今や女性リーダーは当たり前の時代。日本の女性の社会進出や活躍の場は広がったといっても、管理職の男女比率や所得には依然として大きな格差がある。

 河野 なぜ世界でできて日本ではできないのでしょうか?

 田原 日本では「男女平等」「女性活躍」と言いながら、女性リーダーが少ないのは、男性が既得権益を守りたいと思っているのと、「子育ては女性の仕事」という意識がまだ根強く残っているところにある。「男性が家族を養わなければいけない」と教えられて育っている世代は、頭では分かっていても行動が伴わない。欧米諸国の多くは「女性に働いてもらっている」と考えるのが多数派だが、日本ではいまだに「女性に働かせてあげている」と考える男性がまだ多く存在しているのではないか。

 子育てが始まると多くの女性は離職するか、時短勤務となる。保育園に預けてもお迎えのために早退し、熱を出したら会社を休むのは女性。男性は残業で毎日帰宅が遅い。女性の労働問題は男性の労働問題でもある。先進国ではまず見られない働き方が日本では普通とされることが問題だ。

 ◇「クオータ制」導入の検討を

 河野 女性にとっても男性にとっても働きやすい社会を実現するためにはどうしたらいいと思われますか?

 田原 課題は山積みでこれらを解決するための要となるのが、「男女共同参画」を担当する大臣なのだが、コロコロ変わっていて、この問題にじっくり取り組む体制ができていない。具体的な成果を出して積み上げていくしかない。まずは早急に議員や企業の役員、管理職に一定数以上を女性に割り当てる「クオータ制」の導入を検討するべきだと考え、訴えかけを続けている。女性議員や女性管理職が増えれば、男性が気づかなかった社会の問題が取り上げられる機会が増え、改善の道が開かれる。政治家が先頭に立って導入すれば、企業やその他の組織でも導入が進むと思う。女性が活躍できる社会にすることで男性もまた活性化する。女性の積極的な活用は日本社会全体を活性化する鍵となるだろう。

聞き手・企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学 医師)、文・構成:稲垣麻里子

 田原総一朗(たはら・そういちろう) ジャーナリスト。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。「日本の戦争」(小学館)、「塀の上を走れ 田原総一朗自伝」(講談社)、「誰もが書かなかった日本の戦争」(ポプラ社)、「田原総一朗責任 編集 竹中先生、日本経済 次はどうなりますか?」(アスコム)など、多数の著書がある。

 河野恵美子(こうの・えみこ) 大阪医科薬科大学一般・消化器外科医師。01年宮崎大学を卒業。06年に出産し、1年3カ月の専業主婦を経て復帰。11年「外科医の手プロジェクト」を立ち上げ手術器具の研究を開始、15年に2人の女性外科医と消化器外科の女性医師を支援する団体「AEGIS-Women」を設立。20年に内閣府男女共同参画局「令和2年度女性のチャレンジ賞」を受賞。22年「手術執刀経験の男女格差」の論文をJAMA Surgeryに発表。24年に「令和6年度女性のチャレンジ支援賞」「平塚らいてう賞 特別賞」(AEGIS-Women)受賞。パブリックリソース財団「女性リーダー支援基金~一粒の麦~」二期生。厚生労働省医学部生向け労働法教育事業の委員。TEDxNambaにも出演。


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