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ほっておくとどうなる?
~痔の悪化と合併症の危険性~ 【第6回】

 痔(じ)は初期のうちに適切なケアを行えば、悪化を防ぐことができます。しかし、放置すると症状が進行し、裂肛や痔ろうといった合併症を引き起こすこともあります。今回のコラムでは、痔を放置した場合に起こり得るリスクと重症化を防ぐためのポイントについて解説します。

 実際にクリニックに寄せられた痔に関する相談も幾つか紹介しますので、その背景や症状、そして適切な対処法について皆さんの参考になれば幸いです。

痔には「内痔核」「外痔核」「裂肛(れっこう)」の種類がある(イメージ)

痔には「内痔核」「外痔核」「裂肛(れっこう)」の種類がある(イメージ)

 ◇痔の種類と悪化のサイン

 痔には主に「内痔核」「外痔核」「裂肛(れっこう)」の種類があり、それぞれに特徴や症状があります。ここでは、痔の種類を詳しく見ていくとともに、悪化のサインについて解説します。

 内痔核(いぼ痔)

 内痔核は肛門の内側にできる血管の膨らみで、通常は痛みを伴わないことが多いですが、出血が起こることがあります。悪化すると脱出(肛門の外に出ること)や炎症を引き起こし、痛みを伴うようになります。

 初期症状:排便時の出血、無痛性の出血

 悪化のサイン:痔核の脱出(脱肛)、強い痛み、腫れ

 放置すると:血栓性外痔核へ進行する可能性、慢性的な出血による貧血リスク

 外痔核

 外痔核は肛門の外側にできる血管の膨らみで、通常は強い痛みを伴います。特に、血栓ができると激しい痛みが生じることがあります。

 初期症状:肛門周囲のしこり、違和感、軽い痛み

 悪化のサイン:強い痛み、紫色の腫れ、血栓形成

 放置すると:血栓が肥大化し、激痛を伴う状態に進行

 裂肛(切れ痔)

 裂肛は肛門の皮膚が亀裂を起こすことで、便が通るたびに激しい痛み出血が伴います。慢性化すると出血や痛みが続くことがあり、悪化することがあります。

 初期症状:排便時の鋭い痛み、少量の出血

 悪化のサイン:慢性化による潰瘍形成、肛門狭窄(きょうさく)

 放置すると:排便困難となり、さらに便秘が悪化する悪循環に

 ◇実際にクリニックにあった相談事例

 相談事例1: 出血が続く

 ある患者さんは、数カ月前から排便時に出血があることを訴えてクリニックを訪れました。最初は「一時的なものだろう」と放置していたのですが、出血が続くことで不安になり、診察を受けることにしたとのことです。

 診察の結果、軽度の痔核が確認され、早期の治療が必要と判断されました。このように、初期の段階で対処することが、症状の悪化を防ぐ鍵となります。

 相談事例2: 痛みがひどい

 別の患者さんは、激しい痛みを伴う痔の症状を訴えました。排便時の痛みが強く、日常生活にも支障を来しているとのこと。

 クリニックでの診断により外痔核の急性炎症と診断され、適切な治療と生活習慣の改善を提案しました。特に、痛みを我慢して放置することは合併症を引き起こす危険性があるため、早期の受診が重要です。

痔は放置すると症状が進行し、裂肛や痔ろうといった合併症を引き起こす(イメージ)

痔は放置すると症状が進行し、裂肛や痔ろうといった合併症を引き起こす(イメージ)

 ◇合併症のリスク

 痔を放置すると、以下のような深刻な合併症を引き起こすことがあります。

 特に、直腸の出血が続くと貧血を引き起こす可能性があり、また、慢性的な痛みが続くことで精神的なストレスも増大します。

 1. 痔瘻(じろう)

 症状:肛門周囲の膿、発熱、強い痛み

 原因:肛門周囲膿瘍が自然に破れて瘻管(ろうかん)を形成する

 治療:外科的手術が必要(自然治癒はしない)

 2. 貧血

 症状:慢性的な出血による疲労感、動悸、めまい

 原因:内痔核からの継続的な出血

 治療:鉄剤治療、痔の根本治療が必要

 3. 肛門狭窄

 症状:排便困難、極端な便秘、細い便

 原因:慢性的な裂肛の放置や、繰り返す手術後の瘢痕形成

 治療:肛門拡張術や外科的治療が必要

 4. 感染症のリスク

 症状:肛門周囲の膿、発熱、全身倦怠感

 原因:化膿性痔核、膿瘍の形成

 治療:抗生物質投与、外科的処置が必要

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