2024/12/18 05:00
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日本医科大学武蔵小杉病院の腫瘍内科教授、勝俣範之先生は「医療否定本の嘘」(扶桑社)や「『抗がん剤は効かない』の罪」(毎日新聞社)などを出版され、いわゆる医療否定本に対して根拠を提示しながらはっきりと反論しています。
勝俣先生とは肺がんの学会で何度かご一緒し、その説得力のある明快な講演に感服しています。腫瘍内科医として、単に抗がん剤を投与するだけでなく、がん患者さんの生活や不安に寄り添い、ともに闘うという姿勢。そんな勝俣先生に「抗がん剤は効かない」という思い込みをいかに打破するかなどを聞きました。
私は「2週間くらいかけてぜひ標準治療を受けてください。髪は抜けてもまた生えますから」と説明しました。そのままにすると、がんの進行で通過障害が起こるリスクが高いと思われました。結局、抗がん剤投与を受け、非常に良くなって退院し、自営業ができるまでになり、とても喜んでいました。「まさかこんなに効くとは思わなかった」とも言っていました。
それにしても、抗がん剤が効かないという思い込みの強さには驚くほどです。こうした患者さんは多いですよね。なぜ、こんなに抗がん剤が否定されるとお思いですか。やはり「近藤本」(近藤誠医師の著書)の影響でつくられたイメージが大きいのでしょうか。「近藤本」には多くの論文が引用され、抗がん剤が効かない根拠にされていますが、どう考えますか。
ここ15年で大きく進歩
勝俣 一言で抗がん剤と言っても、現在では130種類以上もありますし、がんの種類や進行度、また患者さんの肝機能や腎機能などの状態によっても、抗がん剤の効果は変ってきます。また、抗がん剤はまだまだ発展途上であり、抗がん剤のみで治すことができるがんは、一部のがんのみとなります。
ただ、治すまでは難しくとも、手術や放射線と組み合わせて治癒率を上げたり、抗がん剤をうまく使うことによって、より長く元気に共存ができるようになりました。今から15年ほど前までは、殺細胞薬(化学療法)と言って、副作用が強いものが主体であり、かつ、効果もそれほど高くなかったので、抗がん剤の悪いイメージが広がったのだと思います。
ここ15年の進歩で、分子標的薬という、がん細胞だけが持っている分子を狙って攻撃することができる薬剤が登場しました。従来の抗がん剤に比べ、より効果が高く、副作用も少なくできる薬剤の登場は画期的であったと思います。ただ、問題なのは、分子標的薬といっても、副作用がゼロではなく、間質性肺炎などの、分子標的薬に特徴的な重篤な副作用があるということです。
抗がん剤を投与する際に最も大切なことは、副作用のマネジメントです。副作用ができるだけ少なくなるようにします。また副作用があった際にも適切な処置、対応をすることによって、副作用から逃れることができます。そういった意味でも、やはり、抗がん剤というのは、専門医によって処方されるべきなのです。
しかし、日本の現状だと、抗がん剤の専門医である腫瘍内科医(がん薬物療法専門医)が非常に少なく(2018年4月現在1258人)、多くのがん患者さんは専門医でない、例えば外科医によって処方されることが多いのです。腫瘍内科医が少ないことで、抗がん剤の副作用対策がうまくいかず、抗がん剤の悪いイメージをさらに悪くしている可能性もあると思います。
まとめて言いますと、抗がん剤は確かに劇薬で、副作用が強いのですが、適切に使うことで治癒率を高め、がんとよりうまく共存できる治療薬であるということです。また、抗がん剤を使う際には、できれば腫瘍内科医に投与してもらうのが良いですし、ご自身の病院に腫瘍内科医がいない場合には、セカンドオピニオンを受けるということも良いように思います。
(2018/09/07 10:38)
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