一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏

(第11回) オフポンプ手術で先陣 =「使命感」原動力に

 数多くの症例を経験すると、従来の手術方法では救命できない重症患者に出会うことも増えた。天野氏の元には、他の病院では手の施しようがないとさじを投げられた重症患者が、次々に紹介されるようになった。そこで新たに挑戦したのが、人工心肺装置を使わず、心臓を動かしたまま行う「オフポンプ手術」である。

 

当時、冠動脈バイパス手術(用語説明)はすべて、心臓の動きを止め、人工心肺装置につないだ状態で行うのが一般的だった。ところが、この方法は患者の体への負担が大きく、肝臓病、糖尿病などの持病がある人や、高齢で全身状態が良くない患者にはリスクが高い手術とされていた。

 天野氏自身も人工心肺装置を使って、肝硬変で全身状態が悪かった患者の手術を行ったことがある。手術は成功したが、術後合併症のため人工呼吸器を装着。これをきっかけに患者は家族から見放され、自分で人工呼吸器を外してひっそり亡くなってしまったのだ。

 「手術して元気になるところまでは何とかしたかった。助ける方法はなかったのかと、ずっと心に引っ掛かっていたんです」。合併症が予想される重症患者には、人工心肺装置を使わない方法があることをイタリアの施設が報告。「謎を解く鍵はこれだと思いました」と天野氏。新たな技術が確立される瞬間は、このように訪れるのかもしれない。

 「もしかしたら偽物の鍵かもしれない。でも、開けてみよう、鍵を開けたら奈落の底に落ちるかもしれないけれど、悪いことは考えずに、とにかく突っ込もうと思った。突っ込んだら、やはり重症の人で、非常にいい結果が出ました」

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一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏