肝硬変〔かんこうへん〕

 肝硬変はあらゆる肝臓病の終末像です。肝臓は線維化が進んで硬くなり、表面を見ると大小の結節でデコボコになっています。また、肝組織を顕微鏡で見ると、正常の構造がくずれていて、線維の束で囲まれた再生結節が完成しています。
 肝硬変では、肝臓の細胞の機能が低下する肝不全と、肝線維化によって門脈圧が高くなる門脈圧亢進の2つが代表的な病態で、これによって黄疸(おうだん)腹水肝性脳症、食道胃静脈瘤などさまざまな症状や身体所見があらわれます。また、肝硬変になると肝細胞がんができやすくなるため、その定期的な検査も必要です。
 以前は肝硬変はもとに戻らず、不可逆的に進行する病気と考えられてきました。しかし、HBV(B型肝炎ウイルス)がコントロール可能になり、HCV(C型肝炎ウイルス)はほぼ全例で排除が可能になって、肝障害の原因が除かれれば肝機能は改善し、肝臓の硬さも軽減することがわかってきました。しかし、一部には原因が除かれても肝機能が改善しない患者さんもいます。肝臓を素通りする血流が多く(側副血行路)、肝臓に入る門脈の血流が少ないことが、肝機能がよくならない原因の一つだと考えられています。

[原因]
 以前は、わが国の肝硬変はHBV、HCVによるウイルス性の症例が大部分でした。しかし、抗ウイルス療法の進歩によって、HBV、HCVの感染による症例は減少傾向にあり、最近では50%以上の患者さんは肝炎ウイルス以外が原因の肝硬変です。肝炎ウイルス以外では、アルコール性非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)による肝硬変が増加傾向にあります。また、適切な治療が行われなかった場合や、治療が効きにくい場合には、自己免疫性肝炎原発性胆汁性胆管炎原発性硬化性胆管炎も肝硬変に進展します。なお、原因不明の肝硬変もみられますが、もとはNAFLDですでに肝臓から脂肪滴が消失してしまった場合が多いと考えられています。

[症状]
 肝硬変になっても、すぐに肝臓の機能が低下して、症状があらわれるわけではありません。肝硬変でも、まったく症状がなく、検査をしないと慢性肝炎と区別できない状態を、代償性肝硬変といいます。肝臓の機能が低下すると、黄疸、腹水、肝性脳症などの症状が出現し、この状態を非代償性肝硬変と呼んでいます。富士山で5合目までが慢性肝炎、その上で雪が積もってない高さが代償性肝硬変、雪が積もっている頂上のあたりが非代償性肝硬変と例えることができます。
 代償性肝硬変でも、くも状血管拡張、手掌紅斑などの皮膚症状や食道胃静脈瘤などの消化管病変はみられる場合があります。食道や胃の静脈瘤は肝臓が硬くなったため、肝臓に向かう門脈の血流が、食道や胃の静脈に流れてしまったもので、血管の腫(は)れが高度になると血管が破れて、吐血が突然みられたり、黒色便がみられたりします。直腸にも静脈瘤ができる場合があり、これが破れると鮮紅色の下血が突然みられます。また、くも状血管拡張が消化管の粘膜にできたり、門脈圧亢進で消化管粘膜の毛細血管が充血したりして、これらが消化管出血の原因になる場合もあります。
 非代償性肝硬変になると、黄疸、腹水、肝性脳症などの症状があらわれますが、特に腹水と肝性脳症は患者さんの生活の質(QOL)を低下させるため、その予防と治療が重要です。また、これらの症状が出現すると、栄養状態がわるくなり(低栄養)、筋肉量と筋力が低下します(サルコペニア)。いっぽう、肝血流量が低下すると、門脈の血液が固まることがあり(門脈圧血栓症)、その結果、門脈圧がさらに高くなって、肝臓の機能も低下します。肺炎、腹水や胸水の細菌感染(特発性細菌性腹膜炎、胸膜炎)などもしばしば起こります。さらに、肝臓の機能低下と関連して、腎臓や呼吸器の機能が悪化する場合もあり(肝腎症候群、肝肺症候群)、肺動脈の血圧が高くなることもあります(門脈肺高血圧症)。このように非代償性肝硬変は肝臓だけの病気でなく、さまざまな臓器の異常が起こる全身の病気です。

[診断]
 肝硬変の正確な診断には、腹腔鏡検査や肝生検による顕微鏡検査が必要でした。しかし、現在は血液検査、画像検査および肝硬度検査などが進歩しており、顕微鏡検査などをおこなわなくても診断が可能になっています。
 むしろどのくらい肝臓の機能が低下しているかの診断が重要であり、その目的では、Child-Pugh分類、MELDスコア、mALBIスコアなどを計算します。これらのスコアは、肝がんを併発したときにどのような治療をおこなうか、肝移植をおこなうかなどを決定する際に利用します。MELDスコアとmALBIスコアは複雑な式を用いて計算しますが、日本肝臓学会のホームページにアクセスすると、簡単に結果が得られます( 日本肝臓学会「肝予備能評価スコア計算サイト(mALBIグレード追加)のご案内」)。
 また、肝硬変は肝がんを併発しますので、そのスクリーニングに超音波検査などの画像検査を定期的におこなう必要があります。静脈瘤などの消化管病変の検査のため、上部・下部消化管内視鏡検査も必要となります。

[治療]
 成因の治療がもっとも重要ですが、これと同時に腹水、肝性脳症など非代償性肝硬変でみられるさまざまな症状の治療と、消化管病変などの合併症の治療を並行しておこないます。成因の治療は、各疾患の項に記載していますが、HBV、HCVによるウイルス性の場合は慢性肝炎と肝硬変で違いがあります。また、非代償性肝硬変では肝移植も治療として考慮します。

■抗ウイルス療法
 HBVに対しては、エンテカビル(ETV)、テノホビル・アラフェナミド(TAF)など核酸アナログの内服による治療をおこないます。慢性肝炎の場合は、薬を中止できる場合がまれにありますが、肝硬変では原則的に生涯内服を続けます。ペグ・インターフェロンは肝硬変の場合では用いることができません。
 HCVに対しては、代償性肝硬変ではNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(グレカプレビル)とNS5A複製複合体阻害薬(ピブレンタスビル)の配合錠(グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠)を1日1回3錠を12週間内服することで、99%以上でウイルス排除が可能です。Child-Pugh分類が7点以上で非代償性肝硬変と診断された場合は、NS5A複製複合体阻害薬(ベルパタスビル)とNS5Bポリメラーゼ阻害薬(ソホスブビル)の配合錠(ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠)を1日1回1錠を12週間内服することで、90~95%でウイルス排除が可能です。

■腹水の治療
 まず、塩分制限をおこないます。腹水がたまると、塩分の成分であるナトリウムを尿に排泄しにくくするアルドステロンというホルモンの血中濃度が高くなるため、薬としてはまずアルドステロンの作用を抑えるスピロノラクトンを内服します。それでも効果が不十分な場合は、強制的に尿中にナトリウムを排泄させるフロセミドも内服しますが、その量が多かったり、内服期間が長かったりすると、腎臓の機能が低下します。そこで、スピロノラクトンとフロセミドの内服でも効果が十分でない場合は、これらの量はふやさないで、水を尿に排泄しにくくするホルモンであるバソプレシンの作用を抑えるトルバプタンの内服を開始します。その際は1週間程度の入院が必要です。
 腹水が大量で、腹部がパンパンにはっていると、トルバプタンなど利尿薬の効果があらわれにくくなります。このため腹水量が多い場合は、皮膚から針を刺して、腹水を排液する治療もおこないます。腹水を排液すると、その中に含まれるたんぱくが失われるため、血中にもっとも多いたんぱくであるアルブミンの血液製剤を点滴で静脈注射をしながら、排液をおこないます。排液した腹水を濃縮して、静脈注射で血管内に戻す治療をおこなう場合もあります。
 また、腹水は腸管内の細菌が感染しやすく、特発性細菌性腹膜炎という合併症がしばしば起こりますので、その場合は抗菌薬を点滴で静脈注射します。

■肝性脳症の治療
 腸管内の細菌がつくるアンモニアが肝性脳症の原因になるため、肝硬変の患者さんはふだんから便秘にならないようにする必要があります。そのため肝性脳症が出現するリスクがある場合は、アンモニアをつくる細菌を減らして便をやわらかくする合成二糖類を薬として内服します。合成二糖類は甘みのある粉末ですが、自分の好みに合った味付けになるよう水に溶かして、1日3回内服します。便がクリーム状になるのが理想的で、内服する量や回数は、患者さんが自分で調節します。また、アンモニアをつくる細菌を抑えるために、腸管から吸収されないリファキシミンをいう抗菌薬の内服も併用します。特に合成二糖類を内服すると便がやわらかくなりすぎて、日常生活に影響する場合には、リファキシミンが治療の中心になります。
 肝硬変の患者さんは分岐鎖アミノ酸、亜鉛、カルニチンなどが不足しており、これらの不足が肝性脳症を悪化させる原因になります。そこで、分岐鎖アミノ酸製剤、酢酸亜鉛水和物、レボカルニチンなどを薬として、不足分を補うために内服することも、肝性脳症の予防と治療では重要です。
 あきらかな肝性脳症が出ている場合は、薬を内服することができません。そのような場合は、分岐鎖アミノ酸製剤を点滴で静脈内投与し、合成二糖類を微温湯に溶かして、肛門から大腸全体に行きわたらせるよう注入します。これらの処置で肝性脳症が軽減したあとは、内服による治療に切り替えます。

■栄養療法
 肝性脳症があきらかな場合は、アンモニアのもとになるたんぱく質の摂取量を制限しますが、落ち着いたあとはなるべくたんぱく質の摂取量をふやして、栄養状態が良好な状態を保ちます。1日に体重1kgあたり1.2~1.5g以上のたんぱく質を食べる必要がありますが、食事のみでは十分でない場合が多いので、バリン、ロイシン、イソロイシンなど分岐鎖アミノ酸を多く含む分岐鎖アミノ酸顆粒や肝不全用栄養剤を併用します。
 なお、非代償性肝硬変の患者さんは、12時間何も食べないでいると、健康な人が3日間絶食した場合と同じ程度の飢餓(きが)状態になり、栄養不良になります。このため夕食と朝食の間に、200~300キロカロリー程度の間食が必要です。これをLES(late evening snack)と呼んでいます。肝不全用栄養剤は2種類あり、1包で200ないし310キロカロリーのため、これをLESに用いるのが便利です。食事時間と寝る時間、起きる時間を考慮して、夜遅くないし早朝に肝不全用栄養剤を内服します。

■消化管病変の治療
 食道や胃の静脈瘤は太く蛇行するようになったり、表面に赤い部分が出てきたりすると、破裂して出血する場合があります。その場合は、内視鏡で除きながら、静脈瘤を輪ゴムで結ぶ内視鏡的結紮(けっさつ)療法(EVL)や、静脈瘤内に血液を固める薬を注入する内視鏡的硬化療法(EIS)を予防的におこないます。出血してしまった場合も、まずEVLによって止血して、その後、根治のために必要に応じてEISを追加します。
 なお、胃の静脈瘤は血流が多く、EVLで治療することが困難です。そのため出血した場合は、特殊な接着剤を内部に注入するEISをおこないます。その後、足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し、静脈瘤まで進めて、その出口の血管で風船をふくらませて、静脈瘤の中に血液を固める治療(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術:BRTO)をおこなう場合もあります。
 食道胃静脈瘤や胃の毛細血管拡張、門脈圧が高いことによる粘膜のうっ血などがあると、胃酸が原因で出血が起こることがあります。そこで、胃酸が出るのを抑える薬を内服することもあります。

■肝移植
 非代償性肝硬変で65歳までの患者さんは、内科的治療で肝機能が改善しない場合は、肝移植も治療法として考慮する必要があります。脳死になったドナーからの脳死肝移植を希望する場合は、肝移植実施施設で臓器移植ネットワークに登録しますが、MELDスコアが高値であると優先順位が上になります。わが国では脳死ドナーがあまり多くありませんので、家族、親族が相談して、自発的にドナーに名乗り出る方がいる場合は、生体肝移植ができるかどうかも検討します。

■医療費の助成
 肝硬変の治療では、比較的高価な薬がたくさん用いられます。内視鏡治療、肝移植などの費用も高額です。このため非代償性肝硬変の患者さんは、身体障害者として「肝臓機能障害」の申請を行うことが推奨されます。自治体によって基準が異なりますが、2級ないし3級以上の障害と認定されると、外来、入院のいずれの医療費も、自己負担がなくなります。ただし、この制度で医療費の負担がなくなるためには、65歳未満で肝臓機能障害の認定を受けておく必要があります。
 また、HBV、HCVによる肝硬変の場合は、代償性で肝臓機能障害の対象にならなくても、肝がん・重症肝硬変治療研究促進事業に登録して、医療費の自己負担額上限(月)を抑えることができます。ただし、この制度は世帯の年収によっては利用できない場合もあります。

 
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