一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏
(第12回)戦う相手、人から病気に=最後のとりで、患者に「大丈夫」
旭川赤十字病院(北海道旭川市)に異動したとき、上山氏は外科医として脂の乗り切った44歳。その後20年が「本物の医療の壮絶な戦いだった」と振り返る。
上山氏が最も得意とするのは、脳動脈瘤(りゅう)の開頭クリッピング術。放置して破裂すれば命を落とす危険性があり、今のところ手術以外に治療法はない。しかし動脈瘤の位置次第で、手術によってさまざまなリスクが伴う。呼吸など生命維持に関わる延髄の近くなら、傷つけることで命を落とす可能性がある。また、視神経の近くなら失明のリスクがあるなど、他の脳外科医がリスクを恐れて二の足を踏んだケースに、果敢に挑んできた。
「このまま放置すれば100%死ぬことが分かっているのに、逃げるわけにはいかない。絶対に負けたくない。助けられる保証はないが全力でやりますと言うと、どの患者さんも信用してお願いしますと言ってくれました」
もちろん一か八かで無謀な賭けに出るというわけではない。不可能を可能にするため、さまざまな手術手技を開発してきた。通常、脳動脈瘤の開頭クリッピング術は、正常な血管と脳動脈瘤の境界を、金属製の動脈瘤クリップで挟んで脳動脈瘤に血流が入らないようにして、破裂の危険を回避する。
しかし上山氏のもとにやって来るのは、30ミリを超えるような巨大脳動脈瘤で正常な血管を巻き込んでいたり、複雑に入り組んだ神経の奥にあって到達が困難だったり、動脈瘤から重要な血管が発生していて、血流を遮断するとまひが残る危険性があるなどの難治症例ばかり。脳の機能を維持するために必要な血流は確保しながら、神経を傷つけずに脳動脈瘤だけを退治するのは至難の業だ。
動脈瘤への血流を遮断すると脳梗塞を起こす可能性が高い場合には、頭皮の裏にある血流の豊富な血管を採取し、血液のう回路(バイパス)を作ってからクリップをかける。師匠である故・伊藤善太郎氏が日本で初めて開発した手技だ。
「顕微鏡を使って直径1ミリの血管を直径0.02ミリの糸で縫います。細い血管になると0.2ミリの血管をバイパスすることもあります。針を1回通して糸を3回結ぶ。これを血管壁の厚さによって20回前後繰り返します」
(2017/11/30 10:52)