女性アスリート健康支援委員会 アスリートの田中理恵は永遠に消えない ~競技者として女性として母として生きる~
チャレンジする心を持ち続ける 【第3回(最終回)】
2012年ロンドン五輪で体操の日本代表選手となり、女子体操選手としては長身の157センチの体格を生かした演技で活躍した田中理恵さんに、20年余の競技生活や引退後の生活、現役選手へのメッセージなどを語っていただきました。医師として女性アスリートの健康サポートにも長年携わってこられた「総合母子保健センター 愛育病院」の安達知子名誉院長(東京女子医科大学客員教授)にもオブザーバーとして参加していただき、専門家としての知見を述べていただきました。
安達知子名誉院長
◇高齢出産はハイリスク
―少子化問題に関して、自民党の大物政治家が「初婚年齢が遅いから子どもが少ない」と発言していましたが、そのあたりについて安達先生はどうお考えでしょうか。
安達先生 諸外国では事実婚で家族を形成していることも多いのですが、日本では結婚しないと出産しません。その政治家は「まずは結婚してください」という思いだったのかもしれません。実際に出産年齢がどんどん遅くなっています。第2次ベビーブームの1970年代初頭(71~74年)は年間200万人の出生がありましたが、そのうちの100万人強は25~29歳の女性が出産していました。しかし、2022年は年間おおよそ77万人にまで減っています。出産で一番多い年齢が30代前半のところにシフトしています。40代で出産する方も増加しています。今の生殖医療は進歩してきていますが、リスクの高い出産になりますし、その年齢になると自然にも、不妊治療を行っても簡単に妊娠しなくなります。「この年齢になると子どもはできにくい」ということを知らない方もいました。
―そういうことも知らないというのは意外です。
安達先生 これは性教育の話でもありますが、若い時に結婚して妊娠・出産してほしいのなら、妊娠・出産を若い時にしてもきちんと働ける環境とか、経済的にも社会的にも人生が充実できるようにする施策が必要です。
―日本では、働いている女性が家事も育児も担っている実態がまだまだあります。現状では、女性が仕事を続け、キャリアアップするには「結婚しない、出産しない」という選択をせざるを得ません。
安達先生 ちょっと違う話かもしれませんが、M字カーブと呼ばれる就労率の数字があります。女性の10代後半から60代までの就労のカーブが諸外国では台形です。20歳で働き始めてから60歳になるまで就労率がほとんど変わらず、台形の上辺のように直線に近いカーブです。65歳ぐらいになると仕事を辞めますので、線は右下に落ちていきます。ところが日本の女性就労率は20代の半ばから下がり、30代の半ばまで落ち込んでMの字のくぼみのように下がります。1975年頃はこの年齢での就労率が40~45%でした。半分以上の方は働いていませんでした。M字ですから、くぼんだ後に線は上向きになるのですが、一度仕事を辞めると元の仕事には戻れず、常勤ではなく非常勤とかパートだったり派遣だったりして仕事へのモチベーションが高められません。
―その他にも税制などの問題が影響していませんか。
安達先生 税制の問題もあります。配偶者の収入がある程度以上あって、自身の収入がある線を越えた場合は、税率や社会保険料の支払いなども生じますので、そのような事情も女性の働き方に影響しています。
◇日本の現状はまだ「ガラスの天井」
―「家事は女性がやるもの」という意識は変わってきたのでしょうか。
安達先生 「仕事を頑張りたい」という女性にとっては、固定的役割分担という意識が管理職への登用を含めて阻害要因になってきました。今は少しずつ改善されていますが、まだ改善の余地は大きいです。現在はM字が台形にかなり近づいているのですが、まだM字です。しかし、(数値が)回復した時のポジションが同じ年齢の男性より低いという実態があります。子どもを出産しないで頑張っている女性であっても、「ガラスの天井」のように、ある所から上には行きづらいというのが日本の現状ではないでしょうか。そういう意味では理恵さんには、お子さんもいて仕事も頑張っているというモデルになってほしいです。いろんな分野にモデルはいますが、理恵さんにはスポーツで頑張ってきた人たちのモデルであってもらいたいと思います。
「そう言っていただき、ありがとうございます」
安達先生 男女共同参画社会が話題になる最初が、皇后の雅子さまの世代です。私はその前の世代で、女性の就労率も低かったです。今は育児休業制度というのがありますが、それが育児介護休業法、当時は育児休業法として法制化され、スタートしたのが1992年でした。私は子どもが2人いますが、私の世代は法律によって育児休暇(育休)を取得できる保証がなかったため、出産後6週間の産後休暇(産休)のみ取得して仕事に戻れる人というのは限られていました。よほど本人が努力するか、家族ぐるみで育児をサポートしてくれる環境がなければ難しい時代でした。今は誰もができるようなシステムを(国が)一生懸命につくっていますが、まだまだ追い付いていません。
(2023/03/29 05:00)
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