難聴と歩行機能低下で3倍に
~高齢者の転倒・骨折リスク(東京都健康長寿医療センター研究所 桜井良太研究員)~
加齢とともに進む難聴は、転倒のリスクを高める可能性が指摘さている。東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)の桜井良太研究員らによる調査で、加齢性難聴に加え、歩行機能の低下がある高齢者は、転倒やそれに伴う骨折のリスクがそれぞれ約3倍高くなることが分かった。

難聴と歩行機能低下による転倒
◇歩行遅いほど転倒
厚生労働省調べ(2022年)では、転倒、骨折は、「要介護」となる原因の13%を占め、認知症、脳卒中に次ぐ。12の研究をまとめた国際論文では、難聴の人の転倒リスクが高いことが報告されている。
国内の加齢性難聴者は1500万人以上。80歳以上では、男性の84%、女性の73%が難聴と推測される。難聴でも補聴器を使用していない人は欧米に比べて著しく多い。
桜井研究員は「22年に、中等度以上の加齢性難聴がある高齢者では、歩行速度が遅い人ほど転倒リスクが高く、歩行速度が保たれている人は転倒リスクがあまり高くないことを突き止めました」と話す。
◇相乗的にリスク高める
歩行能力のレベルが加齢性難聴者の転倒リスクに影響するのでは、と考えた桜井研究員らは786人の高齢者を難聴、歩行機能低下の有無で4群に分け、転倒やそれによる骨折の発生状況を最長8年間追跡した。
分析の結果、難聴と歩行速度低下の両方があるグループは、いずれもないグループに比べ、追跡期間中に複数回転倒するリスクが2.96倍、転倒による骨折のリスクも2.98倍有意に高くなることが分かった。
「加齢性難聴だけでは、転倒やそれによる骨折を起こす可能性はそれほど高くありませんが、それに歩行機能の低下が加わると、リスクが相乗的に高まります」
その理由については、「耳から入る情報は、障害物を避ける動作など、体の動きを安定化させる働きがあります。難聴によって情報が制限されることで、転倒リスクが高まります」とみる。
難聴のある高齢者には「補聴器の利用だけでなく、歩行機能を低下させないように定期的な運動を心掛けてください」と呼び掛ける。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/06/04 05:00)
【関連記事】