女性アスリート健康支援委員会 アスリートの田中理恵は永遠に消えない ~競技者として女性として母として生きる~

チャレンジする心を持ち続ける 【第3回(最終回)】

体操クラブを設立した「田中3きょうだい」。左から和仁さん、理恵さん、佑典さん=2022年6月、横浜市戸塚区

体操クラブを設立した「田中3きょうだい」。左から和仁さん、理恵さん、佑典さん=2022年6月、横浜市戸塚区

 ◇田中体操クラブでコーチの仕事

 ―田中さんは現在体操の指導はされているのですか。

 「はい。一昨年の11月に神奈川県の戸塚に3きょうだいで開いた『田中体操クラブ』で教えています。クラブには200人を超える子どもたちが通っています。地方で開かれるイベントの体操教室でも教えています。講演やトークショーなどもやらせていただいています」

 ―小さい子は何歳から通っているのですか。

 「2歳の子からいますが、もう少し大きい子では必ずしも体操選手を目指すというのではなく、田中体操クラブでは『体を動かすことは、いろんなスポーツにつながりますよ。同時に人間性も成長できますよ』ということをコンセプトに運営しています。体操で培った体幹などを生かして、サッカーでも水泳でも野球でもどんな競技でもやっていいという考え方です」

 安達先生 日本は女性が世界で一番長寿、男性が3番目ですが、健康寿命という観点から見る必要もあります。何らかの支障があって、日常生活が1人ではできないという年月がありますが、男性が8年程度、女性が12年程度です。その二大原因の一つが、生活習慣病から来る脳卒中などで動けなくなる、もう一つがロコモティブ症候群というものです。骨とか筋肉とかが弱って体がうまく動かせない状態です。膝関節がおかしくなったりして、体を動かさなくなって寝たきりになるケースは女性に多いです。男性は骨折で寝たきりというよりも生活習慣病によるところが多い。病気になって誰かの支援を受けなければいけなくなって、そこに多額のお金を費やすということにならないように『元気でいてください』ということです。そのため、日本の課題の一つとして、いかに健康寿命を延ばせるかが大事になります。高齢者が寝たきりにならないように元気でいるためには、65歳から運動を始めるのではなく、子どもの頃から体を動かす習慣を付けることが重要です。体操クラブで体を動かすことが、ご飯を食べるのと同じような感覚で日常になります。今の時代は、顔の表情を読むこともないメールなどでのやりとりが多くなっていますから、体操クラブで同じ年代や少し上の年齢のお友達と直接一緒に過ごしてコミュニケーションを図ることはとても大事だと思います。

 「先生がおっしゃったように、田中体操クラブでは体操が上手になることが一番ではなく、お友達と一緒に頑張るとか、時には譲るとか、時には我慢するとか、そういった人間性を育ててあげたいです。そして、チャレンジする心を忘れてほしくありませんから、私自身もチャレンジして、体操だけではなく、テレビなどのお仕事もするようにしています」

 ―体操クラブには週に何回ぐらい出ていますか。

 「私はゲストコーチとして妊娠前は週に1回参加していました。兄が代表となり、他はスタッフがいます」

 ◇長所を伸ばす指導

 ―参考までに、会費あるいは月謝というのはおいくらでしょうか。

 「2~3歳のクラスで月に8800円、それより上のクラスは9900円です。原則は週に1回ですが、土曜や日曜にはイベントなどもあり、そこに私も入って技を教えたりします。小さいクラブですから、保護者の方とのコミュニケーションを大事にして、常に話をしながら子どもたちの成長を見守るようにしています。とてもアットホームです。コーチに何でも相談できる環境になっています。コーチ陣が保護者の悩みを聞くことも当然あります。私が育った環境は、母がいつも子どもたちのいいところを見つけてくれていました。親はつい悪いところを見てしまいがちですが、保護者の方に『この1時間の中でいいところを見つけてください』と言いますと、親も子どもも成長できます。『座ってきちんと先生の言うことを聞けたね』と言うだけで、子どもたちも『自分ってすごい。自分もできる』という気持ちになってきます」

 ―いいところを伸ばすという考え方ですね。

 「そうです。もちろん悪いところも一緒に乗り越えて行くのですが、いいところをたくさん見つけてあげたい。私たち3きょうだいはそうやって育ってきましたので、今は未来のある子どもたちにそれを伝えていきたいと思います」

 安達先生 とてもいいですね。

 「最初はうまくならなくてもいいのです。頑張る気持ちや続ける気持ちを大事にしてもらいたいです」

 ―これからさらにやっていきたい目標などがあれば、お聞かせください。

 「まず5月に2人目の子どもが誕生する予定ですので、2人目を育てる、家族が増えるということを楽しみたいという思いです。親としては、常にポジティブで元気な私の母のようでありたいと思います。それと、まだ30代半ばの年齢ですので、これからの人生がまだまだ長いですから、いいことも悪いこともすべて受け入れて自分の人生をつくっていきたいです。体操クラブに関しては、先ほども言いましたが、『頑張る気持ち、諦めない気持ち』を持てるように、保護者や子どもたちとともにみんなで成長できるクラブにしていきたいですね」

 ―田中さんの経験から、女性アスリートへ何か助言はありますか。

 「月経のこととか体の変化のこととか、いろんな悩みがあるはずです。まずは独りで抱え込まないで、相談できる人に相談することです。恥ずかしいことではありません。男女ともに理解できる環境づくりは、私自身もそうなるように発信し続けていきたいと思いますし、選手たちも競技をしていく上では大事なことだと考えてほしいです」


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