「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~
コロナ後の欧州
~流行で何が変わったか~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第70回】
新型コロナウイルスが流行して4年近くが経過しました。この間に水際対策の影響などで海外渡航ができなかった人も数多くいると思います。筆者も流行後は海外に出掛けることがありませんでしたが、9月末、久しぶりにドイツやオランダを訪問する機会がありました。今回は、コロナ流行の間に欧州で何が変わったのかを、渡航者の視点で紹介します。
ドイツでスポーツ観戦を楽しむ現地ファンら。マスク姿は見当たらない=AFP時事(2023年11月、フランクフルト)
◇海外渡航の復活
2020年に新型コロナがパンデミックを起こしてから、世界各国は国際交通を止め、水際対策を強化することにより、流行の拡大を抑えてきました。この影響で国際間の人の移動は大きく減少します。
日本でも19年の海外出国者数は年間2000万人を超えていましたが、20年は317万人、21年は51万人まで大幅に減りました。その後、水際対策は少しずつ緩和され、22年は277万人、23年は8月までに570万人が出国するようになりました。流行前のレベルに戻るには、まだまだ時間がかかるでしょうが、海外渡航が復活していることは明らかです。
私はコロナ流行前まで、仕事の関係で年に数回は海外渡航をしていましたが、最近は4年近く出かけることがありませんでした。そんな中、9月末にドイツのドュッセルドルフで開催される国際会議に出席するため、久しぶりに海外渡航をしてきました。
◇日本と別世界の光景
ロシアのウクライナ侵攻の影響も重なり、日本から欧州に向かう航空便は、今もコロナ前に比べると少なくなっています。このため、ドイツへの航空便を確保するのにややてこずりましたが、北欧のヘルシンキ経由の便を入手できました。
出国前の羽田空港の国際線ターミナルはかなり混雑しており、半数近くの人がマスクを着用していました。私も空港内だけなく機内でもマスクを着用しましたが、外国人の乗客でマスクをしている人はほとんどいませんでした。
そして、目的地のドュッセルドルフに到着すると、空港はもとより町中でマスクをしている人が全くいなくなります。私はそれを見て、それまで着用していたマスクをそっと外し、上着のポケットにしまいました。
以前からテレビの映像などで、欧米ではマスクをする人がほとんどいないのを見てきましたが、その光景を目の当たりにすると、別世界に居るような気分になります。しかし、それも最初の1時間ほどで、私はすぐにその光景に溶け込んでいきました。
◇マスク着用のこつ
このようにマスクを着用しないのは、ドイツだけでなく世界的な風潮で、日本の光景が異様なのでしょう。その一方で、欧米などでは新型コロナの流行が再燃すると、マスク着用を義務化するなどの措置が取られます。ドイツでも22年秋からの流行再燃時 には、公共交通機関でのマスク着用が義務付けられましたが、23年1月末には解除されています。
ただし、高齢者などハイリスク者には混雑した場所でのマスク着用が推奨されており、ドイツでもそういう人を時々見かけました。この場合、日本で主流の白いマスクをしていると目立つので、服と同系色のマスクを着けている人が多かったようです。これですと、服の一部のように見えて、マスクを着けているのが目立ちません。海外渡航中もマスクをしたい人は、服と同系色のマスクを持参するといいでしょう。
◇なんでもキャッシュレス
ドュッセルドルフでの会議後、列車でオランダのアムステルダムに移動しました。ここでもマスクをしている人はほとんどいませんでした。また、いずれの国でも、買い物や食事の時に、多くの店が現金での支払いに応じず、ミネラルウオーター1本買うにも、クレジットカードを使うことがたびたびありました。
こうしたキャッシュレス決済の増加は世界的な風潮ですが、現地に住んでいる日本人に聞くと、新型コロナが流行してから特にその傾向が強いそうです。つまり、感染予防のため、客との接触機会をできるだけ減らそうとする意図があるようです。
新型コロナでは接触感染が少ないとされています。また、お札やコインを介しての感染もまれと言われていますが、政府のキャッシュレス化を進める方針と新型コロナ対策が合致して、現在の状況になっているのでしょう。
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(2023/11/09 05:00)