「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

コロナ後の欧州
~流行で何が変わったか~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第70回】

自転車を列車に持ち込む人が行き交う駅構内(2023年9月、ドイツ・フランクフルト)

自転車を列車に持ち込む人が行き交う駅構内(2023年9月、ドイツ・フランクフルト)

 ◇自転車社会の増長

 もう一つ、ドイツでもオランダでも気が付いたのが、自転車に乗った人が町中を縦横無尽に走っている様子です。自転車専用レーンも多く、そこを歩いていると、怒鳴られることもありました。

 こうした自転車の利用は、環境保護を重視する欧州で以前から見られていましたが、新型コロナの流行以降、その利用者が増えているようです。バスや地下鉄などの公共交通機関があっても、混雑した車内で新型コロナに感染するのを避けるため、自転車を使う人がさらに増えているのです。

 自転車利用率が高まれば、運動不足の解消などに良い影響を与えるでしょうが、歩行者を巻き込む事故も増えてくると思います。欧州を旅行する際には、自転車による事故にも注意する必要があります。

 ◇リアルな体験のメリット

 新型コロナの流行でオンラインを使った会議が普及しました。私が今回参加した国際会議も過去3年はオンラインで行われていましたが、流行も落ち着いてきたので、今回は現地開催になりました。

 そして、今回の会議で多くの参加者が口にしていたのが、「直接お会いできてよかった」という言葉でした。オンラインの会議ですと画面を消して終了ですが、リアルの会議ですとその後に雑談したり、食事をしたりで親交が深まります。人と人との付き合いには、ある程度の移動時間がかかっても、直接会うことのメリットが大きいと強く感じました。

 また、今回の海外渡航中に、現地で日本の観光旅行者にお会いすることは、ほとんどありませんでした。日本で近隣諸国への海外旅行は復活していますが、欧州になるとまだ敷居が高いようです。最近は海外旅行をバーチャル体験できるソフトなども開発されていますが、実際に海外に渡航し、そこで現実の景色を見て、食事や文化を体験することが大きな感動につながると思います。

 コロナの渦中に、情報通信手段が広く普及したことは確かです。この影響で、今後の海外渡航者数はコロナ前のレベルまで戻らないという意見もありますが、私は仕事であれ、観光であれ、今後、海外渡航は大きく回復してくると思います。ただし、コロナの流行を経て海外ではさまざま社会状況が変化しているので、渡航する方は現地の最新情報を入手するようにしてください。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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