「医」の最前線 高知大医学部「家庭医道場」
〔最終回〕それぞれの決意
医療人の原点を学ぶ
学問や知識ではなく、肌で感じながら地域医療を身に付けるため、高知大学医学部の家庭医療学講座(阿波谷敏英教授)が2007年から年2回主催している「家庭医道場」。医学科と看護学科の学生40人が高知県安芸郡馬路村に1泊2日で訪れ、地域の暮らしや医療について学んだ。プログラムの最後、2日間の経験を通して自分は地域の中でどんな医療者を目指すのか、一人ひとりが自分の決意を発表した。
東京出身の学生も地域医療に手ごたえ
◇生活全体をみる医師に
「一人ひとりに寄り添う医師になる」と書いた塚本尚志さん(医学科1年)は東京都の出身。高知大学への入学を機に高知に移り住んだばかりだ。都会の生活に慣れた彼に、馬路村はどう映ったのだろう。
「馬路村の生活はむちゃくちゃ不便だと思っていましたが、実際に村の人と会って話を聞くと、地域のコミュニティーがあって、暮らしやすいことが分かった」と話す。入学して1カ月余りの1年生で先のことは分からないが、「ただ来た人を診るというより、その人の生活全体もみる全人的な医療はやりがいがあると思う」と地域医療に手応えを感じたようだ。
◇チーム医療の基本
「多職種の方と正直に意見しあえる関係を築く」と書いた坂梨壱成さん(医学科5年)は、アジア・へき地医療を支援する会という国際協力サークルで海外支援にも取り組んでいる。将来は、心臓カテーテル治療で患者の命を救える循環器内科の医師を目指しているという。
「家庭医に限らず、どんな分野の医師になるにしても、地域医療の考え方は重要だから」と、馬路村の家庭医道場に参加するのは今回で4回目。グループディスカッションでは積極的に意見をまとめ、リーダーシップを発揮していた。
「私の決意」を手にする実行委員の5人
◇実行委員が主体的に
家庭医道場は5人の実行委員が約2カ月前から準備を始め、当日も進行役として会場を仕切るなど学生主体、教員は後方から見守る形で進められた。 実行委員の1人として落ち着いた仕事ぶりを見せていた井上希さん(医学科2年)は、子どもの頃から体が弱く、健康や命の大切さを感じてきた。高知県出身。のどかで人と人のつながりが深く、地域の人たちに見守られながら育ったという。
「医師になって、お世話になった地域に恩返しがしたい。そのために、どんな医師になればよいのかじっくり考えていきたい」と話す。「私の決意」には「赴く」と書いた。
「家庭医道場に参加して、実際に行ってみないと分からないことがたくさんあることに気づいた。学生のうちも、これからいろいろな場所に行こうと思うし、医師になっても診察室にこもらず、いろいろなところに出て行って人と関わり、いろんなことを吸収していきたい」と話す。
プログラムの進行役の中で、明るくムードメーカー的な存在感を放っていた西村和将さん(医学科4年)は両親ともに医師。乳腺外科医の母親が目の前の患者だけでなく、乳がんの啓発活動にも積極的に取り組む姿を見て育ち、心から尊敬しているという。大学では地域医療について考える部活動にも参加。将来は小児科医を目指し、「私の決意」には「誰にでも優しく」と書いた。
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