「医」の最前線 高知大医学部「家庭医道場」
〔最終回〕それぞれの決意
医療人の原点を学ぶ
家庭医道場の締めくくりとなるクロージングレクチャーでは、阿波谷教授が自らの体験も交えながら、地域医療についての考え方を語った。
阿波谷教授は自治医科大学を卒業後4年目の1993年、高知県西部にある梼原町立松原診療所に赴任した。2年目を迎えた頃、「自分はこのままでいいのか」と焦燥感に駈られるようになったという。
クロージングトークで地域医療について語る阿波谷教授
◇医療の論理、地域の論理
「『田舎で医者やっていて大変でしょ』と、かわいそうな人と思われることに悩んでいました。他の医師からいい評価を受けたい、後れをとりたくないと思っていたのだと思います」。そんな阿波谷教授の思いとは裏腹に、住民からは頼りにされ、「夜、先生の家に明かりがついているだけで安心する」と言われていた。
「今から思うと、この時期が一番幸せだったのかもしれない」と阿波谷教授。次第に地域医療にやりがいを感じるようになり、「医療の論理で地域を考えるのではなく、地域の論理で医療を考える医療者」を目指してきた。それを家庭医道場で学生たちに伝えている。
◇ウルトラマンよりアンパンマン
阿波谷教授は、地域医療を担う医療者をテレビのヒーローにたとえ、「一人が圧倒的な力をもつウルトラマン型よりも、登場人物がたくさんいて、みんなの力で立ち向かっていくアンパンマン型」だと話す。言葉を話さないウルトラマンではなく、多職種連携で地域の人々と良好なコミュニケーションを持つアンパンマンこそが地域医療のイメージにぴったりくるという。
「愛とは与えるもの。与えることで幸せを受け取る。自分が得ることで幸せを得ようとすると、うまくいかない。地域の人々と一緒に幸せになってくれる医療者が増えていってほしい」と学生たちに期待を込めて語った。
家庭医道場の参加者
最後に参加した40人の学生全員が、紙に記した「私の決意」を持って、1人ずつ記念撮影を行った。多くのことを学んだ充実感からだろうか、みんなとてもいい顔をしている。
◇多くの人たちの支え
最後に阿波谷教授が家庭医道場で撮影した写真をムービーに編成し、会場で放映するというサプライズがあった。たった2日間の取材だったが、映された学生たちの笑顔を見ていると熱いものがこみ上げてくる。村役場の人たちも目頭を押さえていた。
「よい医療人を育てたい」と心から願い、学生たちに本気で向き合う教師陣。温かく迎えてくれた地域の人々が家庭医道場を支えていた。今後、医療者となって旅立っていくとき、ここで学んだことが原点になるに違いない。そして、困難に直面したとき、大切に育ててくれた人々がいたことを思い出し、乗り越えていってほしい。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)
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(2019/07/09 16:00)