こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

医療の問題点と改善策① 【第7回】

 日本の医療の問題点とその改善策や、総合診療かかりつけ医がどのように必要になるのかを、今回から2回に分けてお話しします。

 先日、ある方が私のクリニックを受診されました。70代の女性です。普段は糖尿病で大学病院に2カ月に1度通院し、採血・採尿の後、薬が処方されます。また高血圧なので家の近くのクリニックに1カ月に1度、薬をもらいに行っています。

 ある日曜日に動悸(どうき)がして体調が悪くなり、通院している大学病院に電話したところ「主治医がいないから診られない」と断られました。近所のクリニックも日曜なので休診です。仕方がなく翌日まで待って大学病院に行きました。主治医は大学内にいるものの、外来の担当日ではなかったため対応してもらえませんでした。

いざというときに通院できるクリニックを(イメージ)

 そこで、いつものクリニックで診てもらったのですが、動悸の原因は高血糖でした。クリニックの医師が大学病院に電話しましたが、主治医が外来を担当していないという理由で断られました。近くに住む娘さんが当院を知っていたので、母親を連れて来ました。

 このようなことは、外来診療をしているとよくあります。大学病院や総合病院をかかりつけにしていると、いざというときに診てくれません。「外来の担当日でないから」「休みだから」「手術中だから」などと断られます。ですから、家の近くのクリニックをかかりつけにするべきなのです。

 ◇すみ分けが必要

 高齢者が総合病院や大学病院に薬だけもらいに行くのは合理的ではありません。1日がかりになって疲れるので大変です。実は大学の医師も疲れます。医師の長時間労働が問題になったため、4月からの働き方改革で、勤務医の労働時間が制限されています。大学病院は手術や専門に特化した難しい検査・治療をする場所ですので、病状が安定している薬だけの患者はクリニックが診るべきなのです。

 これは、以前から言われているのですが、現実的に進んでいません。実際、自分の患者をクリニックに紹介することも少なく(紹介できるクリニックが少ないのも原因ですが)、総合病院や大学病院の外来は薬だけもらう患者であふれています。いざというときに診てくれない病院をかかりつけにするのは大変危険で、患者が困ります。クリニックは普段から気軽に通院できる場所、大学病院は紹介されていく先だとすみ分けをしっかりさせないと、急な体調不良のとき、どこに行けばいいのか困る高齢者であふれ返るでしょう。

 今の日本の医療体制を三角形にして考えてみましょう。底辺に近い方をクリニック、頂点に近い部分を病院とします。一見するとクリニックは病院よりも多く、普通の三角形のようです。しかし、総合診療クリニックはほとんどありません。つまり、実際は底辺よりも、頂点の方が広い逆三角形なのです。そうすると、患者は病院に駆け込むようになるわけです。地域医療を守る視点からすれば効率的ではないクリニックが10万カ所もあり、本当に高齢者医療を考える総合診療クリニックがないのです。

 この逆三角形医療体制では、今後の高齢者を守る地域医療を支えられません。総合診療クリニックが全国に増え、病院が集約される三角形型になれば▽まず近くの総合診療かかりつけ医を受診する▽手術や精密検査などの高度な医療が必要ならば、責任を持って総合病院に紹介する▽治療が終われば、また総合診療かかりつけ医に戻ってくる――というクリニックと病院のすみ分けができます。

 ◇転換期の地域医療

 総合診療かかりつけ医が自分の家の近くにあれば、わざわざ総合病院を受診し、通院しなくていいわけです。いつでも、何でも、誰でもまず診るクリニックが全国に広がれば、自分のかかりつけを一カ所に決めることができます。そうすれば、高齢者は月に1回通院するだけでよくなります。医療費が削減できるのはもちろん、高齢者にとって体力的な負担も少なくなります。自分の趣味に時間やお金を充てることができ、家族との時間も取れます。

 まさに今が転換期であり、これまでの医師の教育内容も変えないといけないときです。医師一人一人の地域医療の勉強も大事です。はっきり申し上げて、医師個人の判断だけに頼っていては、これからの地域医療は守られないと思っています。国や自治体、大学病院、民間企業が地方に総合診療クリニックを建てて、そこで医師を雇用するのです。

 これから医師の働き方も問われます。日本に医師は増えており、とても多いですが、有効に働いていません。地域医療を支える医師の待遇を少し良くして、複数で休日もしっかり取れるシフト制にすれば、これから増える女性医師にとっても働きやすい場所になります。政治が動くときです。政治の力で、全国に総合診療かかりつけ医を増やし日本の地域医療を守らないといけません。(了)


菊池大和(きくち・やまと)
 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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