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地域包括ケアに不可欠 【第4回】

 「地域包括ケアシステム」という言葉を皆さんはご存じでしょうか。一度は聞いたことがあるかもしれませんが、詳しく理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は地域包括ケアシステムを分かりやすくお伝えし、総合診療かかりつけ医がどのような役割を果たすのかを説明したいと思います。

 日本では、第一次ベビーブームが第2次世界大戦後の1947年に起きました。47~49年に生まれた世代を「団塊」と呼びます。この3年間で約800万人誕生しました。

 団塊の世代が75歳になる2025年を目途に、国が考えたのが「地域包括ケアシステム」です。75歳以上になると生きていくのに他人の助けが必要になる方が増えるため、いわゆる要介護になっても住み慣れた地域で自分らしく人生の最期を迎えられるようにできた制度です。医療・介護・予防・住まい・生活支援を地域でまとめてサービスできるようにしようとする仕組みです。

 30分以内の距離で完結

 14年に「医療介護総合確保推進法」が施行され、厚生労働省が全国の自治体に推進するよう指示しました。具体的には、住まいから30分以内の距離ですべてのサービスを完結できるようにします。地域ごとに内容は委ねられています。

 超高齢社会に突入し、つえ歩行の高齢者が遠い場所まで行かなくても医療が受けられるようにしなければなりません。独り暮らしの認知症の方や、寝たきりの高齢の生活を誰がどのように支えていくのか、人生の最期をどこでどのように迎えてもらうのかなど、地域が一人の高齢者の全体の面倒を見ていくのです。

 そこで大事な役割を果たすのが「地域包括支援センター」です。市役所や役場、病院に設置されています。同センターは保健師、社会福祉士、ケアマネジャーという職種が中心となり、相談に来た住民にアドバイスをします。

地域包括支援センターで生活や健康に関するアドバイスが受けられる(イメージ)

地域包括支援センターで生活や健康に関するアドバイスが受けられる(イメージ)

 例えば「認知症になった母親をどうすればいいのか」「寝たきりになってしまいどうしたらいいか」「かかりつけ医を探している」「独り暮らしが心配」「足が不自由になって買い物に行けない」など、生活や健康に不安のある方がやって来ます。

 医療に関しては、かかりつけ医を紹介します。介護が必要なら担当のケアマネジャーを見つけて訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護などのサービスを入れることができます。介護認定を受けるため、介護の状態を判定しなければならないときには「主治医意見書」という書類を医師に書いてもらわないといけません。

 「どこまで日常生活ができるのか」「どっちの足が悪いのか」「まひはあるのか」「排せつは一人でできるのか」「認知症はどこまで進んでいるのか」「どのようなサービスが必要なのか」などを医師が記入します。

 自分の生活や病気、特に認知症の状態を分かっている医師、つまり、普段から何でも診てくれている、かかりつけ医がいないといけないのです。

 これを読んでいる方々は元気で自分のことのように思えないかもしれませんが、親の状況を考えてみてください。あるいは、自分が80歳になったときの暮らしを想像してみてください。通院している先が総合病院であれば、家の近くのクリニックに変えたほうがいいですし、整形外科にしか通っていないのであれば、家の近くのまとめて診てくれるクリニックをかかりつけにした方がいいのです。

 ◇システムを有効に動かす

 具体的な話をしましょう。

 80代の男性です。元気な方で、2カ月に1回総合病院に薬だけもらいに行っていました。ある日、腰を痛めてしまい、1週間入院しました。退院したのですが、体力が落ちていました。一人で歩くことも困難で総合病院まで薬をもらいに行けなくなりました。家族が地域包括支援センターに相談に行くと、家の近くのクリニックをかかりつけにするようアドバイスをしてくれました。初めてのクリニックで今までの病気のことなどを説明し、一から検査をすることになりました。まだその先生とは信頼関係もできておらず、伝えたいことも言えず不安になりました。「もっと早く、ここに来ていればよかった」と後悔しました。

 90代の女性です。元気ですが膝の痛みがあり、近くの整形外科クリニックに薬だけをもらいに行っていました。家族が久しぶりに会うと、物忘れがひどく、病院を探しましたが、近くに診てくれる所がなく、車で1時間かけて病院に通うことになりました。普段の整形外科では物忘れは診てくれず、本人はもちろん、家族の負担が大きくなってしまいました。

 このように、総合病院や専門クリニックにだけ通院する高齢者が増えると困ることが多くなります。しかし、家の近くに「いつでも、なんでも、だれでもまず診る」総合診療かかりつけ医がいれば解決できます。地域包括ケアシステムが必要なのは当然であり、そこには信頼できる地域を支える医師が不可欠である点も理解いただけたと思います。全国に総合診療かかりつけ医を増やし、このシステムを有効に動かさないといけません。(了)


 菊池大和(きくち・やまと)

 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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