こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

自分と大切な人を守る 【第6回】

 これを読んでいる皆さんにとって、信頼できる、いつでも気軽に相談できるクリニックはありますか。自分の命を預けられるかかりつけ医はいますか。

 すぐに答えられない人も多いでしょう。それはまだ自分が若く、移動もでき、困ることがないからです。自分の症状を自分で判断して自由に病院やクリニックを探して受診できるからです。定期的に通院している内科のクリニックであれば、そこには薬だけもらいに行くだけのことです。

 腰が痛くなったら整形外科を、頭痛があれば脳神経外科を受診するでしょう。若者で、今の地域医療を問題だと感じている人はほとんどいないと思います。

 今回の新型コロナウイルス感染症の大流行の際は、発熱患者を診てくれるクリニックが少なくなりました。若くても高齢でも年齢に関係なく、どこに行けばいいのか分からない診療難民があふれました。

 ◇近くに信頼できるクリニック

 若者は体力があるので、何とか医療機関を探して受診できる場合が多かったのですが、体力のない高齢者で自宅から動けなかったり、家から離れた病院に行けなかったりするケースが大変多くなりました。しかし、医療が必要になる場合が多くて病気も悪化しやすいのが高齢者です。

 そこで、高齢者や体力のない方にとって、特に受診しやすい医療機関が近くにあることが必要になります。そこは受診のハードルが低い総合診療クリニックであることが理想です。複数の病気をまとめて診てくれたり、急な体調不良にも対応してくれたりする総合診療かかりつけ医を主治医にすることがとても大切になります。

総合診療かかりつけ医が大切な人や将来の自分を助ける(イメージ)

総合診療かかりつけ医が大切な人や将来の自分を助ける(イメージ)

 もし自分が80歳を超えたときに、家の近くに信頼できるクリニックがあれば安心です。足が悪い高齢の両親の家の近くに何でも診てくれるクリニックがあれば、これほど安心できることはありません。しかし、さまざまな理由でこういうクリニックが少ないのが現実です。

 この問題は、これから30年間くらいの長い時間をかけて浮き彫りになっていきます。専門しか診ないクリニックが都会に増えます。地方ではクリニック自体がなくなっていきます。私は日本の将来がとても心配なので、こうしてさまざまな機会を捉えて総合診療かかりつけ医の必要性を訴えています。

 ◇家族で話し合いを

 私は全国に総合診療かかりつけ医が増えると信じていますが、まだまだ時間がかかります。そこで皆さん、以下のことを考えてみてください。家族で話し合うのもいいでしょう。

 ①定期的に通院している病院・クリニックは、自分のすべてを診てくれますか?

 ②日祝日に具合が悪くなったら、どこを受診しますか?

 ③総合病院をかかりつけにしていませんか?

 ④遠い病院に通っている方は、足が悪くなったらどこに通院しますか?

 ⑤通院しているクリニックは、どこの総合病院と連携していますか?

 ⑥信頼できるクリニックの医師はいますか?

 ⑦物忘れが気になったら、どこを受診しますか?

 ⑧急に胸痛、腹痛、腰痛があったら、どこを受診しますか?

 このような問いには答えを用意しておいた方がいいと思います。自分のため、ご両親のためになります。今は50代以下の方たちが、30年後に気軽に受診できるかかりつけ医がなくなっては困ります。国が地域医療のことを真面目に考え、何かしらの政策を打ち出してくれると信じています。

 それまでは自分の命は自分で守らないといけません。周りにクリニックがないのであれば、医療機関が整っている地域に引っ越すのも手段かもしれません。

 ◇開業医の使命

 若者が減り、高齢者が増えていき、医療介護に従事する人が地方から少なくなります。国も含めて、さまざまな企業が知恵を出し、遠隔診療を使って地域医療を守ろうとしています。しかし、いざというときに医師が直接診察して検査し、病気を見つけることが一番大事になります。地域の医療体制が壊れることがないように、われわれ医師も行動しないといけません。国民の健康を守るのは開業医の使命です。

 2019年に内閣府がまとめた「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」で、かかりつけ医を選ぶ際に重視している点を挙げています。その上位三つは、

 ①病状、治療内容など、分かりやすく説明をしてくれる

 ②かかりつけ医が治療できない病気が見つかった場合、専門の医療機関などを紹介してくれる

 ③話を十分に聞いてくれる

 でした。

 必ずしも人口が多い地域が安心とは限りませんし、地方だからといって不安でもありません。総合診療クリニックが家の近くにあるかどうかです。

 厚生労働省が15年に「保健医療2035提言書」を出しました。その中で「総合的な診療を行うことができるかかりつけ医のさらなる育成が必須であり、今後10年間程度ですべての地域でこうした総合的な診療を行う医師を配置する体制を構築する」と強調しています。

 しかし、日本は医師教育であまりにも専門分野に力を入れてきたため、総合診療かかりつけ医が育成されていないのが現実です。まだまだ時間がかかりますが、待ったなしの状況です。

 総合診療かかりつけ医が自分の家の近くにあれば、患者はわざわざ総合病院を受診することがないわけです。いつでも、何でも、誰でも、まず診るクリニックが全国に広がれば、自分のかかりつけ医を1人だけでも決めることができます。

 私は全国に総合診療かかりつけ医が広がれば、地域医療は必ず守られると信じています。多くの方が、この課題を真面目に考え行動し、必ず結果を出さないといけません。(了)

 菊池大和(きくち・やまと)

 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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