こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

医療の問題点と改善策② 【第8回】

 医療の問題は社会問題に発展します。医療崩壊=社会崩壊、ひいては国の崩壊になってしまいます。新型コロナウイルス感染症の大流行で▽医療機関の分担▽開業医の在り方▽かかりつけ医の位置付け――といった日本の医療体制の問題が多く指摘されました。まさに弱点が分かったのです。世界的にも評価される国民皆保険制度を維持しつつ、国民誰しもが平等で高度な医療を受けられますが、超高齢化社会で若い人口が減ってくる日本で、越えなければならない課題が多いのも事実です。

 ここでは医療体制の見直すべき2点についてお話したいと思います。医療介護従事者不足の問題・医師の偏在による弊害と、国民医療費の増大問題です。

 ◇量の拡大から質の改善へ

 厚生労働省が2015年に提言した「保健医療2035」の中で、今後のビジョンが書かれています。従来の医療制度の発想を転換し、新たな社会システムへの「パラダイムシフト」が必要だと提唱しています。その中に「量の拡大から質の改善へ」という内容があります。全国各地に医師の数を増やして医療が全国民に行き渡ることを目的とするのではなく、サービスの質を高めて効率よく継続性を目指そうという方針です。

 医療・介護が必要になる人が増える時代になり、どうやって地域医療を守るのか。地域を支える開業医(ここでは総合診療かかりつけ医を指します)が不足する一方、社会のニーズは大きくなります。加えて、訪問診療の必要性も高まります。通院が難しくなった要介護者が激増するためです。地域医療を守る開業医(総合診療かかりつけ医)を増やすため、いろいろな策を講じないといけません。国、自治体、大学、民間企業がそれぞれの立場で、開業する医師をサポートする必要があります。

 医師の偏在を見ると、地域の格差が顕著です。例えば人口10万人当たりの医師数を比べると、札幌市は約350人で名古屋市は約330人ですが、福島県いわき市は約140人、愛知県豊田市は約139人です。県単位でも、同じく徳島県は約340人ですが、埼玉県は約180人です。これは、大学の医局に入る医師が少なくなり、地方の病院に派遣できなくなったからです。また診療科の偏在もあります。いわゆる訴訟リスクや労働環境から、外科、救急科、産婦人科、脳神経外科の医師は減っています。

 私が一番深刻に思う偏在は、病院とクリニックの医師数です。日本は病院が多いために病院勤務の医師が多く、散らばっています。そうなると一人一人の医師の労働負担が大きくなります。例えば、当直の回数が多くなります。

 もっと地域を第一線で守る総合診療クリニックを増やし、そこに医師を充てるべきだと考えます。増加している女性医師にとっても、働きやすい環境は総合診療クリニックで実現できます。医師の数だけを多くしても、労働負担の大きな状況をなくさないと、さまざまな偏在がますます顕著になっていくでしょう。

 ◇受診の重複削減を

問題は従事者不足と医療費増大(イメージ)

 次は医療費の問題です。医療技術が進歩し、CT検査やMRI検査などの高度な医療機器検査が普及しました。複数の医療機関に受診する高齢者が増えています。救命できてもベッドで寝たきりの高齢者が増えています。これらが原因で医療費は年々膨らんでいます。国民医療費は年々上がり続け、今では年間で45兆円を超えています。1980年は10兆円、2010年は40兆円でした。65歳以上は1人で1年間に35万円を医療費に使います。これは65歳未満の4倍になります。

 高齢者が増えるので、医療・介護にかかるお金は膨らんで当然ですが、財源を探すのも限界があります。高齢者の負担を上げたり、若者の税金から回したりしています。今後、高齢者が幾つも病院に通い、飲む薬が多くなれば、その都度初診料・再診料がかかり、検査も増えて医療費が膨張するのは目に見えています。そこで、総合診療かかりつけ医を増やし、高齢者はまずそこで受診するようにすればいいと考えます。

 受診する医療機関を少なくして初診・再診料を減らし、検査を重複させず、薬を減らすよう徹底すれば、かなり医療費は削減できると思います。初診料は約3000円、再診料は約700円、血液検査は約3000円、レントゲン1枚約3000円です。これらの重複を減らす努力は必要不可欠です。

 具体例を挙げてみましょう。80代の男性が頭が痛くて、かかりつけの内科を受診しました。血圧が高かったために降圧薬を1種類処方され、治らなければ脳神経外科に行くように言われました。ここで初診料と処方箋料を払います。翌日、脳神経外科を訪れますが、頭部CT検査を受けても異常はないとされ、さらにもう1種類の降圧薬と鎮痛剤が出ました。ここでも初診料、処方箋料、CT検査料がかかります。

 しばらくして腰が痛くなり、整形外科を受診しました。そこで頭痛の相談をすると「首が悪いかも」と言われ、レントゲンを撮りました。結果は「異常なし」であり、さらにもう1種類の鎮痛剤が処方されました。ここでも初診料、処方箋料、レントゲン検査料を払います。

 このように医療費が増えていきます。医師が専門に偏ると、こうなってしまいます。総合診療かかりつけ医であれば、頭痛で受診された患者の原因を総合的に診察でき、1回で済みます。高齢者診療は、なるべく1回の受診で済ませられるかかりつけ医が望ましいのです。

 以上のように、総合診療クリニックで勤務する総合診療かかりつけ医を増やすことは、日本の未来を考えれば当然だと思います。(了)


菊池大和(きくち・やまと)
 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。

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