こちら診察室 総合診療かかりつけ医とは

いつでも、何でも、誰でもまず診る 【第9回】

 今回、私が考える総合診療かかりつけ医の特徴をお話ししたいと思います。

 その前に、もし地域医療の現状が変わらないまま10年後、20年後、30年後を迎えると、患者の方々がどのように困るのか、実際の話を交えながらご説明したいと思います。

 今の地域医療や開業医についてお話しします。日本には約10万のクリニックがあり、毎年徐々に増えています。ここ10年間で1万カ所の伸びです。細かく見てみます。北海道は横ばい、東北は減少、関東は増加、甲信越・北陸は減少、中部は微増、関西は微増、中国・四国は減少、九州・沖縄は減少です。関東は毎年200カ所増えています。

 クリニックの特徴として①院長が高齢である②専門に特化している③日曜祝日は休診になる④地域格差がある――ことが挙げられます。

 ◇高齢、専門、休診、格差…

 このうち①の、院長が高齢である点を考えてみます。開業医の院長の平均年齢は60代です。ここ数年間、都市では30~40代の若さで開業する方も多くなってきました。一方、特に地方では高齢化が進み、後継ぎもいないために閉院してしまうクリニックも目立ちます。高齢医師の割合が大きくなるデメリットは▽いつ閉院するのか不安がある▽診察に時間がかかり、多くの患者に対応できない▽新型コロナウイルス感染症拡大の際のように、感染症の患者を積極的に診られない――ことです。つまり体力の問題が出てきているのです。

 次に②の専門について触れます。10万あるクリニックは大抵、専門に特化しています。今まで勉強してきた得意分野で50代あたりで開業します。「消化器内科で20年勤務してきたからクリニックで内視鏡を積極的に使いたい」「精神科で勤務してきたからメンタルクリニックを開きたい」「糖尿病専門医の資格を持っているから糖尿病クリニックにしたい」「脳神経外科で勤務してきたから脳神経外科クリニックを開業する」というのがごく普通の流れです。それは必要かもしれませんが、将来の地域医療を考えると専門クリニックがこれ以上増えても仕方がありません。総合的に診る医師が必要なのは言うまでもありません。

 ③の日祝が休診であるのは、昔からの流れでしょうか。木曜、土曜午後、日曜を休診にする開業医が多いのです。診療日は院長が決められるので、日祝に開いてもいいのですが、開業医は勤務医時代と違って休みもしっかり取りたいので、好きな日を休診にします。ただ、これから必要になってくるクリニックは、日祝も診療する割合を増やさないといけません。もちろん医師一人ではできません。複数の医師を雇ったり、近隣の大学病院から派遣してもらったりします。高齢者は特に、日祝に体調を崩してしまうと受診する病院がなくて困ります。そういう方がこれから増えていくのです。

地域医療の現状が変わらなければ…(イメージ)

 ④の地域格差については、地方の方々がますます不安になっているでしょう。クリニック自体が無くなり、高度な専門医療を受けるには家から離れた所まで行かないといけません。どうしても医療機関は人口が多い場所に増える傾向にあるので仕方がないのかもしれませんが、できるだけいつでも気軽に受診できるクリニックがあれば安心です。どんな症状でも何かあったら専門医に紹介してくれるかかりつけ医が必要です。逆に、都市は駅前に専門クリニックが乱立しています。自分の責任でクリニックを探しますが、最悪なケースでは「たらい回し」になることもあります。「ここでは診られない」「熱があればお断りします」などと平気で言われます。「いったい自分を誰が診てくれるのだろう」と不安になります。特に、高齢者があちこち受診するのは不可能なので、気軽に行ける、何でも診てくれるかかりつけ医が必要なのです。

 ◇地域医療のあるべき姿

 私の経験を紹介します。ともに80代のご夫婦です。高血圧があり、今まで近くの内科にかかっていましたが、物忘れも気になり、膝も痛くなったため、友人からの紹介で私のクリニックを受診されました。これまでのクリニックの院長は高齢で、いつ閉院するのかも心配だったようです。血圧認知症、膝もまとめて診ることになり、主治医意見書も書くことになりました。これが地域医療のあるべき姿です。「どんな症状でも受診できるクリニックが家の近くにある」と、ご夫婦はとても喜んでしました。

 つまり、総合診療かかりつけ医は▽どんな症状でもまず診てくれる▽急な体調不良も絶対診てくれる▽家族全員で受診できる▽検査や薬は最小限に抑える▽昔からの経緯を分かってもらえる――ということが特徴です。最も信頼でき、命を預けられるかかりつけ医は家の近くにいる開業医であり、総合診療かかりつけ医なのです。

 若くて元気な総合診療かかりつけ医が、全国各地で、いつでも、何でも、誰でもまず診ることを通じ、地域医療で活躍できれば、日本の未来は明るいと断言したいと思います。(了)


菊池大和(きくち・やまと)
 日本慢性期医療協会総合診療認定医、日本医師会認定健康スポーツ医、認知症サポート医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)。2004年、福島県立医科大学医学部卒業。湘南東部総合病院外科科長・救急センター長、座間総合病院総合診療科などを経て、総合診療のかかりつけ医として地域を支えるため、2017年に「きくち総合診療クリニック」開院。著書に「『総合診療かかりつけ医』が患者を救う」(幻冬舎)。


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