こちら診察室 舌痛症を考える

症状を緩和する 【第4回】

 前回は舌の痛みを自分で選択している可能性があることをお話しました。その選択を変える方法として、行為の重要性についてもお伝えしました。

 舌痛症の患者に「一日中痛いですか」とお聞きすると「痛みに波があります。仕事や、しなければならないことなどに集中しているときは忘れていることもあります」と言われる方が比較的多いのです。つまり、痛みが少ない時間が存在しており、それを自分がつくり出していると言えます。自分の選択で痛みを和らげているため、その方法を検証すれば痛みの改善に大変有効でしょう。ここが心理療法のポイントです。

 ただ、痛みを抱えながら何かに集中する時間をつくり出すのは簡単ではなく、特に家に一人でいるときなどは、症状にとらわれて不安が増大し痛みがひどくなってしまいます。それは、生理反応(痛み)を変える効果的な行為を選択できていないからです。

痛みは自分で選択している(イメージ)

 ここで、集中する時間をつくるために必要な「上質世界」について説明します。前回もご紹介した「選択理論心理学」は、人は誰でも上質世界という自分が欲するイメージ写真を入れた世界を持っており、そこには、その人が欲する人(家族や恋人、推しの芸能人など)や物(自動車やアクセサリーなど)、状況(「仲間とワイワイやりたい」「一人の時間を多く持ちたい」など)、考え方(宗教や価値観など)が入っているとしています。

 このイメージ写真を得るために行動しているのです。大切なのは求めているものに対する効果的な行動の選択です。ただ、人は内発的動機付けがないと動きません。周囲が「こうした方がいい」と言っても効果がないことが多く、重要なのは自己評価です。

 ◇自己評価を改善につなげる

 セルフカウンセリングという思考を以下にご紹介します。自分が求めているものに対して、今していることを自己評価し、改善行為につなげる方法です。

 ①  私が求めているものは何か(願望の明確化)

 ②  そのために今は何をしているのか(何に対して時間を費やしているのか)

 ③  していることは自分が求めるものを得るために効果的か(求めるものを得るための行動を自己評価)

 ④  さらに良い方法を考え実行する(改善計画と実践)

 このうち①は「舌の痛みがなく健康な自分」。②は「痛みが治らず不安なことばかり考え、何もする気が起きない」。③は「不安なことを考えて何もしないのは、舌の痛みを治すのに効果的か」。④は「いや、効果的とは言えない。舌の痛みの専門家を探して受診してみよう」などです。実際に、私のクリニックを受診しただけで改善する患者もいました。それは「クリニックを受診する」という行為を実践し、その結果、生理反応が変化したためだと考えられます。

 例えば、自分を幸せな家庭を求める会社員の男性と仮定してください。「会社の飲み会の2次会でクラブに行き散財してしまった」→「幸せな家庭を得るために効果的な行動か自己評価する。当然効果的ではない」→「散財しない場所を選ぶ。あるいは2次会を断って早めに帰宅する」などとなります。それで「最近付き合いが悪くなった」と他人に言われても、求めるものに対する効果的な行動を選択しているため、全くぶれることはありません。求めていることとしていることに一貫性があり、自分の行動への責任と自信を持てるようになるでしょう。

 ◇自身の制御を可能に

 自分自身を制御できない方が舌痛症に多い印象を受けます。自信の欠如で不安が多く、生活や未来に希望が持てなくなってしまっているのでしょう。病気の不安も大きく、外部の情報を受けてあらぬ心配までしてしまうかもしれません。「舌の痛みが治らず、最近は腹の具合も悪い。もしかしたらがんかもしれないが、怖くて病院に行けない」などです。

 自分の上質世界にあるイメージ写真を確認し、それを得るためにしていることを評価して改善計画を実践します。小さな自信を積み重ねればやがて大きな自信となり、自分の制御が可能になります。

 最初に心理療法で重要なのは状況の整理です。何が問題となっているのか、思い込みや視点を変えれば状況が変化することもあります。次に、舌の痛みの要因を丁寧に探り、顕在化させます。人間関係や仕事が原因であることも多く、他の病気の不安が引き金になる場合もあります。それらに問題がなくても、カウンセリングの中で、思い通りにならずに無意識にあきらめている自分に気付くこともあります。その上で、求めるものを明らかにします。「私はこんなことを求めていたのですね。初めて気付きました」と言う方もいらっしゃいます。

 求めているものに対し、現在していることを確認し、効果的なのか自己評価を促します。効果的でなければ改善計画を一緒に考えます。強制は一切なく、自らの思考で進めます。重要なのは計画の実行です。行為が変わらない限り、生理反応も変わりません。

 私が担当した中で、イラストを描くことが好きな方がいました。「痛みでその気にならない」と言っていましたが、1日のうち1分でもいいから描くことで行為を変えるという情報提供をしました。実践したところ、次第に毎日の習慣になり、描いている間は痛みが少し和らぐことに気付いたようです。これも、すべて本人の選択によってなされた結果です。

 自分が抱えている心理的影響が身体に多彩な症状や疾患をつくり出していることがお分かりいただけると思います。どんな病気も、まず土台の心理面を考慮すれば、効果的な薬や処置、手術といった治療をさらに進められるのではないでしょうか。(了)


 角田智之(つのだ・ともゆき)
 歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。

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