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歯茎の腫れ
~炎症場所・原因に応じて処置~ 【第5回(最終回)】

 「歯茎が腫れているのですが、どうしたらよいでしょう?」というご相談を受けることがあります。歯茎に限らず体の一部が腫れる場合のほとんどは、局所的な炎症が起きていることが多く、炎症が治まれば腫れも引いてくるのが普通です。ちなみに、歯の中の神経(歯髄)に急性炎症が起こった場合には、周りが硬い歯の組織に囲まれているために腫れることができず、神経組織が圧迫されて夜も眠れないほどの激しい痛みに見舞われるのです。一方、歯の周囲の歯茎の場合には、周りが柔らかい歯茎の組織で容易に腫れることができるため、顔まで腫れてしまうのです。

 ◇原因

炎症が見られる上の歯茎。前歯との境目が腫れている=写真1

炎症が見られる上の歯茎。前歯との境目が腫れている=写真1

 1.汚れがたまり歯周病に

 この歯茎の腫れで一番多いのが、歯の周辺部に炎症が起き、歯の回りを取り囲むように腫れているケースです。例えば親知らず(智歯)の場合には、「智歯周囲炎」と言って周囲に汚れ(歯垢=しこう)がたまって、これが炎症の原因となって腫れることがあります。特に親知らずが斜めに生えていて、半分だけ顔を出しているときに多く見られます。

 親知らず以外の歯の場合は、周りに歯垢がたまり、これが歯石という石のような汚れ(細菌)の塊になり、歯茎が歯周病になってしまいます。その結果、歯の周りの歯茎が赤く腫れ(写真1)、しばしば外から見てすぐに分かるほど顔まで腫れてきます。この場合は歯周病の急性炎症であることが多く、痛みも伴います。体に抵抗力があるうちは、炎症が起きずにバランスが保たれていることが多いのですが、仕事のストレスがたまったり睡眠時間が不足したり、硬いものをかんで局所的に不用意な力が加わったりすると、急な炎症へのスイッチが入ることがあります。このような場合は歯の周りの歯茎の炎症、すなわち歯周病であることが多いのです。

上顎裏側の腫れ=写真2

上顎裏側の腫れ=写真2

 2.歯の根の先端で炎症

 次に原因として考えられるのが、歯の根の先に炎症が起こっている場合です。歯を支えている骨の中に炎症が起こっているため、歯の周囲というよりも歯の根の先端付近の歯茎を中心に腫れることが多く、炎症のうみが歯が植わっている骨の中から外に出てきて柔らかな歯茎にまで達した段階で腫れてきます(写真2)。写真では上顎の裏側ですが、通常は外(唇)側に現れることも多く、ひどくなると一目で分かるほど顔がパンパンに腫れてくることもあります。うみが中にたまっている間は、内圧が高まって激しく痛み、夜も眠れません。

歯茎に現れたおできのような腫れ=写真3

歯茎に現れたおできのような腫れ=写真3

 一方、痛みは全く感じない状態で、歯の根の先端部分の歯茎に「おでき」のような腫れが現れる場合があります(写真3)。この場合は、歯の根の先端部に慢性的な炎症が起こっていることが多いのですが、体調が良好な時に一時的に消失することもあり、治ったと勘違いしやすいのも特徴です。また、このような症状のときは歯が破折している場合もありますので、注意が必要です。これらの症状のある歯は、いずれも歯の神経が死んでいて、その死骸に感染した細菌が原因となって炎症が起きています。

 ◇治療法

 若年者(10代)の歯周病の場合、歯と歯の間の三角形の部分の歯茎が腫れていて、触ると出血するような症状があるときは、歯茎に軽い炎症が起こっているだけです。歯磨きをしっかりと行えば改善されるケースもあります。ただ、成人だと腫れた場所を含めたお口の中全体の歯周病の進行状態を検査し、正しい歯ブラシの使い方などの指導を受けた上で、適切な処置を施されることが多くなります。また、親知らずが原因の場合は、抗生物質の投与などによって炎症が消失した後に抜歯をすることがほとんどです。

 一方、歯の根の先に炎症があると診断された場合には、うみを出すなどの処置を行って腫れが治まった後に、歯の根の中を消毒する治療を何回か行う必要があります。この連載でお話した「歯内療法」のうちの感染根管治療と呼ばれる方法で、マイクロスコープを使用した精密な治療が通常、複数回必要となります。

 歯茎の腫れは、全身疾患の一部の症状として現れる場合もあります。腫れている場所や原因によって対処法がそれぞれ異なってきますので、自己判断を避けて歯科医院を受診し、歯科医師の専門的な診断の下に適切な治療を受けていただくことが大切です。

 今回の連載は、歯科の処置の中でも専門性が高い歯内療法に焦点を当ててお話をさせていただきました。お口の中の処置については歯科医師なら全てに通じていて、治療法も全て網羅できるものと思われがちです。しかし、例えば内科が各臓器や疾患別に高い専門性を持っているのと同等に、口の中という狭い環境ではありますが、歯科にも専門的な治療法が数多く存在しています。地域の歯科医院にもそれぞれ得意分野があり、そうした専門的な治療を行っている先生方もたくさんいらっしゃいます。ご自身の歯科疾患の状況に鑑みて、かかりつけの歯科医院で気軽にご相談いただければよろしいかと思います。(了)

古澤成博教授

古澤成博教授


古澤成博(ふるさわ・まさひろ)
 東京歯科大学教授。
 1983年東京歯科大学卒業、87年同大大学院歯学研究科修了。同大歯科保存学第一講座助手、口腔健康臨床科学講座准教授などを経て2013年4月から同大歯内療法学講座主任教授。16年6月から水道橋病院保存科部長を兼務し、19年6月からは副病院長も務める。
 日本歯科保存学会専門医・指導医、日本歯内療法学会専門医・指導医、日本顕微鏡歯科学会認定医。これら3学会や日本総合歯科学会の理事を歴任。

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