こちら診察室 歯の健康と治療

歯内療法とはどんな処置? 【第3回】

 虫歯になったと分かったら、普通は歯科医院で治療を受けます。虫歯菌による侵食が歯の表面にとどまっていれば比較的簡単に済みますが、神経を抜かなければならないほど進んでいる場合は難しい処置が必要になります。その際に行われるのが歯の内部の治療、すなわち「歯内療法」です。

 ◇歯根の形は千差万別

 前回お話ししたように、虫歯の進行などによって炎症を起こした神経(歯髄)は激しい痛みを生じることがありますので、直ちに神経を抜く処置(抜髄)を行わなければなりません。神経が入っている歯の根の部分の形は、全ての人の顔が異なるのと同じように、全て違う形をしていると言っても過言ではありません。また、前歯、小臼歯、大臼歯のそれぞれ上顎、下顎で全て異なる形態をしています。

マイクロスコープを使った治療

マイクロスコープを使った治療

 ◇マイクロスコープで精密・確実に

 歯の神経を的確に抜くためには、治療する歯の根の形態をきちんと把握する必要があります。あらかじめエックス線写真で検査することが重要ですが、通常の2次元的な平面の写真だけでは正確な診断ができない場合も多く、最近では輪切りのエックス線写真(CT)を撮影して、3次元的に診断しなくてはならない場合もあります。このようにして正確に状態を把握した上で、マイクロスコープを使用して実際に歯の中を拡大して観察しつつ処置を行います。

 かつては歯の中を歯科医師が肉眼で確認できず、完全な手探りでした。そのため、大変不確実な処置となりやすく、後で再発することも多かったのです。しかしながら、現在では上記のような便利な機器が開発され、治療のための環境整備が進んでいます。マイクロスコープを使用することで、精密で確実な処置ができるようになってきました(写真)。

(左から)図1、2、3

(左から)図1、2、3

 ◇高い専門性

 とはいえ、一般歯科医師がこのマイクロスコープを駆使できるようになるまでには、かなりの訓練と修行が必要です。この過程を経てレベルの高い治療ができるようになったとき、歯内療法専門医となるのです。それだけ歯内療法という処置は難しく、専門性が高いと言えます。

 具体的には図1~2に示すように、神経を抜いた後、空洞となった歯の根の中の複雑な形態を種々の特殊な器具を使って単純な形態に修正し、最後にいわゆる根の中を詰める処置を行います(図3)。歯の中の形を整える処置を「根管形成」と言い、歯の根を詰める処置を「根管充填(じゅうてん)」と言います。この一連の処置が歯内療法です。

 ここまでの説明に使った図では単純な形をしていますが、実際の人間の歯の中は図4に示すように実に複雑な形態をしていて、細かく網目状になった根管の全ての部分の形を整えることなど不可能に近いのです。従って、薬剤を使って細かい部分の清掃をし、消毒薬を用いて何回も歯の中の消毒を行う必要があります。このため、通常の歯内療法には時間がかかり、何回かの通院が求められます。

図4

図4

 ◇数回以上の通院が必要

 これらの処置を正確に行うためには専門的な細かい機具・器材が必要です。しかも、それぞれの患者さんごとに滅菌して使用しなくてはならないため、相当のコストがかかります。にもかかわらず、保険診療では低い点数に抑えられており、専門の歯科医師が診療しても一般診療となる場合もあります。

 たまに「もっと早く治療が終わらないのか?」とのお問い合わせを頂くことがありますが、歯の中がきちんと消毒されたかどうかは目で見て分かりませんし、感染した細菌がどのくらい残っているのかも分かりません。また、個々の患者さんの免疫力によっても反応の違いがありますので、われわれ歯科医師は十分な消毒を行った上で根管充填を行う必要があるのです。こうした慎重な対応が要求される歯内療法は1~2回で終了するものではありません。ご理解いただければと思います。(了)

古澤成博教授

古澤成博教授


古澤成博(ふるさわ・まさひろ)
 東京歯科大学教授。
 1983年東京歯科大学卒業、87年同大大学院歯学研究科修了。同大歯科保存学第一講座助手、口腔健康臨床科学講座准教授などを経て2013年4月から同大歯内療法学講座主任教授。16年6月から水道橋病院保存科部長を兼務し、19年6月からは副病院長も務める。
 日本歯科保存学会専門医・指導医、日本歯内療法学会専門医・指導医、日本顕微鏡歯科学会認定医。これら3学会や日本総合歯科学会の理事を歴任。

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