こちら診察室 舌痛症を考える
原因は自分にあるの? 【第2回】
舌痛症の原因は不明です。ただ、心理面が大きく影響していると言われています。いわゆるストレスです。これを客観評価する研究もありますが、本人が感じた時点でストレスとなります。今回は心理面からどのような影響があるのか考えてみます。
◇ネガティブ思考で痛み
ストレスは外的要因(五感によって取得された情報)によるメンタルダメージを指します。一方、自分の中にある欲求充足ができていない(欲求不満)状態をフラストレーションと呼びます。フラストレーションは、葛藤によって引き起こされると考えられます。では、人はなぜ葛藤し、悩むのでしょうか。思い通りにならないことをコントロールしようとして、結局できなくて葛藤します。多くの人は、過去と他人は変えられないという原則を頭では分かっていても、変えようと努力してしまいます。
「なんであいつは何度注意しても言うことを聞かないんだ」「私は正しいことをしているのに、なぜそれが分からないのか」「あんなことがなければ今ごろは…」「なんで私ばっかりこんな病気になってしまったんだ」など、思い当たるケースはたくさんあるのではないでしょうか。できないことを一生懸命してもできないのは当然です。
では、変えられないものを変えようとしてフラストレーションが大きくなるとどうなるでしょう。体は、その結果によって起こる身体反応が危険なことを知っているので回避行動を取ります。具体的には、フラストレーションがたまって身動きできなくなりそうなときは、まず、過去の経験の中からフラストレーションを改善できた行動を脳が選びます。例えば、気分転換に出掛けてみる、運動をして汗をかく、親しい友人に悩みを話してみるなどです。
しかし、フラストレーションが大きく、その改善行動に効果がなかったり、一時的に良くなっても再燃してしまったりすることもあります。そういった場合でも、何かしなければいられないと脳は考え、行動を要請し続けます。
痛みの原因は自分かも(イメージ)
人間の脳は、状況を改善できる手持ちの行動がなくなってしまった場合、新たな思考・行為を生み出すことができます。これがアイデアとかひらめきに当たると考えられます。「何か成し遂げよう」と一心不乱に努力をしても「もうだめだ。できない」とあきらめかけたとき、ふとアイデアが浮かんだ経験があるかもしれません。これは、達成しようとした事柄のイメージで頭がいっぱいになり、それしか想定できないときだけに起きます。
不安やネガティブな思考で頭の中がいっぱいになってしまっても同様の現象が生じると考えられます。不安やネガティブな状況から脱却する効果的な行動がない場合、やはり脳は新たな思考・行為を生み出します。ただ、それがネガティブな方向であれば、原因不明の痛みや説明のつかない症状、ひいては幻聴や実際に体に疾患をつくる可能性もあるでしょう。
◇自身の制御不能から
その一つが舌の痛みであり、自らつくり出している可能性があります。いわば、原因は自分にあるのかもしれません。しかし、不安やネガティブな思考で頭がいっぱいになっている人の舌が、すべて痛くなるわけではありません。原因はありますが、その結果なぜ舌が痛くなるのかについては、いまだに不明です。
舌だけではなく、心臓の違和感や頭痛、腰痛など体の不調を訴えて病院を受診し検査しても、特に問題はなく、医者から「気にしすぎですよ」と言われるといった話は聞いたことがあるでしょう。不安やネガティブな思考で頭がいっぱいであれば、舌ではなくても他に体の変調が起こると容易に想像できるでしょう。
では、自分に起きているどのような状況が不調の症状をつくり出しているのでしょうか。それは、自分自身を制御できていないときです。病気の不安、生活の不安、人間関係のストレス、過去への執着など。自分が引き起こしたわけではないと思っている事象に対する効果的な対処法がないという思考です。どうにもできないと思ってしまえば、それに身を任せるしかなく、結果的に自己制御不能に陥ってしまいます。そんな状況が長引けば長引くほど、メンタルダメージが蓄積され、やがて現実の身体症状(身体各所の痛み、違和感など)として具現化されてしまうと考えられます。
では、自分自身の制御を取り戻して症状を改善する方法はあるのかどうか。その問いには「ある」とお答えできるでしょう。その方法は次回にお伝えします。(了)
角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。
(2024/08/14 05:00)
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