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骨粗しょう症と口腔外科 【第6回】
健康な骨と(左)骨粗しょう症の骨のイメージ
骨粗しょう症とは、骨が弱くなり骨折しやすくなる病気です。原因として、加齢による女性ホルモンの減少や過度なダイエットが関わっていると考えられています。性差では女性に多く見られます。女性ホルモンの一種であるエストロゲンが骨の吸収(溶けること)の抑制に関与しており、閉経後にその分泌が低下した影響で発症することが多い疾患です。
骨粗しょう症と歯科口腔(こうくう)外科の領域では、顎がもろくなって骨折しやすくなることより、もろくなって歯周病が進みやすくなる方が問題です。また、抜歯した後に顎の骨の活性が低下して治癒不全(骨が露出して細菌に感染した状態)となる可能性もあります。そこで、閉経後の女性は特に歯科医による定期的なメンテナンスが大切でしょう。
◇骨吸収抑制薬がリモデリング抑制
全身の骨はずっと同じではなく、常に古い骨を壊して新しい骨を作る入れ替え作業をしています。これを骨の「リモデリング」と言います。古い骨を壊すのは破骨細胞(はこつさいぼう)、新しい骨を作るのは骨芽細胞(こつがさいぼう)です。
エストロゲンの減少で元気になった破骨細胞の邪魔をして、骨が溶けることにブレーキをかけるのが骨吸収抑制薬(ビスホスホネート製剤、デノスマブ、ロモソズマブなど)です。骨吸収抑制薬は非常に効果的で、骨密度を増加させて骨を硬くします。
破骨細胞をおとなしくさせるので、リモデリングも抑制されます。そのため細胞の寿命を迎えるまでは骨量を維持できます。ただ、リモデリングが抑制されてしまうため骨の新陳代謝は変化してしまいます。
◇薬剤関連性顎骨壊死の治療
歯は歯茎を貫通して顎の骨の中に直接植えられています。この状態は全身の他の骨に見られない特殊な環境です。
口腔内には800種類以上の常在菌が存在し、歯から起こる感染症のほとんどが常在菌によると言われています。細菌は▽抜歯後の傷口▽顎骨と歯の隙間の歯周病にかかった部分▽虫歯を放置して神経が死んだ歯の内部――から顎骨内に入る場合があります。こうなると、骨吸収抑制薬によってリモデリングが変化した骨側は抵抗できず、壊死(えし)してやがて骨は腐り始めてしまいます。骨吸収抑制薬などに関連して起こる薬剤関連性顎骨壊死(MRONJ)は、骨粗しょう症の大きな問題の一つと言ってよいでしょう。注意が必要です。
基本的には壊死骨(腐った骨)を取り除くことが薬剤関連性顎骨壊死の治療になります。まず、保存的治療(抗菌薬の全身局所投与、洗浄)に入り、必要に応じて外科的に壊死骨除去手術をします。骨壊死の波及が広範囲であれば、壊死骨の除去、周辺骨の切除、区域切除(顎の骨を部分的に切り落とす手術)にまで及ぶ場合もあります。
骨吸収抑制薬による顎骨壊死の発生率頻度は経口薬で1万人に1~2人、注射薬で100人に1人程度ですが、抜歯した患者では頻度がさらに上昇します。発症してしまうと難治性で苦しまれる方も少なくありません。
これらの薬剤は、骨粗しょう症だけではなくがんの治療にも使用されています。非常に優秀な薬であり、使用すれば大きな効果を期待できますが、このような副作用も存在します。ただ、海外ではこれらの薬剤を使っているにもかかわらず、日本よりMRONJが少ないという報告もあります。
◇定期的な歯科メンテナンスを
海外で発生が少ないのは、歯科クリニックがどのタイミングで関わっているかということも大きな要因のようです。
虫歯や歯周病を放置しないように
虫歯を放置せず、歯周病についても適切なケアを施し、なおかつ定期的な歯科メンテナンスを欠かさないという習慣付けができていれば、虫歯や歯周病からの感染リスクを大きく減少させることができます。骨粗しょう症だったり骨吸収抑制薬を服用していたりしたとしても、問題が起きにくいと考えます。
骨粗しょう症と診断された時点や閉経する年齢になる前からかかりつけ歯科を決め、定期的に口腔ケアをしてもらうことは、骨粗しょう症のみならずさまざまな疾病リスクの軽減に大きく役立つことでしょう。
骨吸収抑制薬を使用するときは必ず担当医から副作用に関する説明があると思います。非常に効果的な薬であり、全身の骨折リスクを軽減することができますので、むやみに恐れることなくぜひ担当医とよく相談して使ってください。
前回の歯科医受診から1年以上空いていれば、これを機に、かかりつけもしくは近隣の歯科医を訪れ、虫歯、歯周病の治療と3カ月~半年に一度の定期メンテナンスを習慣化していただくことを切に願います。
また、現在は歯の治療や抜歯に際して、骨吸収抑制薬の休薬によるリスク回避の根拠は確立していません。既に薬を使用されている方は、くれぐれも歯科医の診断を受けずに自己の判断だけで休薬はしないようにお願いいたします。(了)
角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。
(2025/03/13 05:00)
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