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非常に多い顎関節症 【第3回】
顎関節症とは、何らかの原因によって顎関節やその周辺組織の異常が生じたことで引き起こされる運動機能障害です。二人に一人は一生の間に経験すると言われるほど多い疾患です。

多くの要因が関係する顎関節症
症状としては、開閉口時の耳の穴の前方部や下顎の後縁・下側の痛み、頭痛、肩こり、首のこりなど痛みが主体である場合のほか、口が開かない運動制限、開閉口時に「コキッ」と音がする関節雑音などがあります。
軽度ならば、音がするだけで痛みを伴わないケースも多いのですが、重度になると開口すらできなくなってしまいます。
顎関節症は、かみ合わせが原因だと以前は言われていました。しかし、現在はそれだけではなく、多くの要因が関係して生じるとされています。
かみ合わせ以外では、精神的要因や顎に加わる力による影響が大きいとされています。特に、上下の歯を意識せず接触させる癖であるTCH(tooth contacting habit)も影響していると考えられています。もちろん、顎をぶつけた際の外傷や歯ぎしり、食いしばりも原因として挙げられるでしょう。
◇5タイプに分類
顎関節症は、以下のように5タイプに分類されます。
Ⅰ型:筋肉の痛みを主体とするタイプです。しゃべり過ぎたり、大声を出し続けたりするなど顎の酷使によって起こる筋緊張型です。
Ⅱ型:関節じん帯の損傷によるタイプです。硬い物を食べたり、歯ぎしり、食いしばったりすることによって、顎が「捻挫」してしまった状態です。
Ⅲ型:関節円板の異常によるタイプです。顎関節には下顎骨と頭蓋骨の間に関節窩(かんせつか)が形成されます。この骨と骨の間には関節円板という組織が介在し、顎をスムーズに開閉させる役割があります。この関節円板の位置がずれてしまった状態です。知らないうちに戻ったりずれたりを繰り返す場合もあれば、ずれたまま位置が戻らないこともあります。
Ⅳ型:骨の変形を伴うタイプです。変形性顎関節症と言われ、繰り返し慢性的な負荷が顎関節にかかるために起こります。
V型:Ⅰ〜Ⅳに該当しないタイプ。
◇まず安静で改善を
顎関節症の治療として、まず考えられるのは顎の安静です。安静とは「口を大きく開けない」「長時間しゃべらない」「硬い物をかまない」です。余計に硬い物を摂取しようとしたり、口を大きく開けようとしたりする人もいますが、逆療法になるので控えてください。不意のあくびも要注意です。
Ⅰ型とⅡ型に関しては、安静だけでも改善する可能性が高いでしょう。Ⅲ型とⅣ型については、安静に加え、顎の位置を調整するスプリント(マウスピース)治療が効果的な場合もあります。その他、顎の関節も膝の関節と同じように関節炎によって水がたまることもあるので、関節腔内の洗浄をしたり、薬を注入したりする治療もあります。
外科的手術によって、ずれた関節円板の位置を戻すことが実施・検討された時代もありましたが、現在ではあまり一般的ではありません。
◇TCHは異常な状態
前述のTCHについても少しお伝えしたいと思います。
人は安静にしている時、歯は上下が接触していないのが普通です。ただ、かんでいなくても、くっついているだけでそしゃくに関係する筋肉は働きます。もし安静にしていても上下の歯が接触している自覚があれば、異常な状態と思っていただいていいでしょう。
この状態に気付いたら、すぐに歯を離す癖をつけることをお勧めします。顎関節症の治療法の一つとして、家の中、壁やトイレ、風呂場など目立つ場所に「ティース・アパート(歯を離す)」と書いた張り紙をしておくと効果的と言われています。これによって、無意識に顎への負担を減らすことができます。

「正中」をまたぐ敏感な顎関節
◇症状続けば受診を
ストレスを感じたり、思い通りにならないと食いしばってしまったりする状況はあると思います。そんなことも顎関節症を悪くしてしまう要因と言えます。
顎関節症は、さまざまな要因によって発生することがお分かりいただけたでしょう。ただ、同じような状況の顎関節でも症状が出る方もいれば出ない方もいます。体への負荷が大きくなり過ぎたとき、症状が出てくるのだと思われます。
人体の真ん中を通る「正中」をまたいで左右の関節がつながっているのは顎関節だけです。それだけ敏感な部分だと言えるので、症状が出たら、なるべく無理せずいたわるようにしていただき、症状が続くときはかかりつけの歯科医で診てもらうようにしてください。(了)

角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。
(2025/01/23 05:00)
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