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親知らずの抜歯 【第2回】

 「親知らず」と聞いて、どんなイメージを持ちますか。一度も生えてこない人もいます。痛みや腫れを伴う厄介な存在として記憶している場合もあるでしょう。そもそも、どんな歯でなぜ生えるのでしょうか。今回は、その基礎知識や問題となるケース、対処法について解説します。

 親知らずは第三大臼歯とも言います。口の中で上下左右のそれぞれ最も奥にあり、最後に生えてきます。通常、20歳前後に生えてくる場合が多く、昔の人は寿命が短かかったため、子の第三大臼歯が生えた頃には親は亡くなっていたことが名前の由来とも言われています。

 ◇問題を引き起こすことも

 多くの人にとって、気になるけどよく分からない存在です。抜くべきなのか悩む人もたくさんいるのではないでしょうか。正常な場合は特に問題ありませんが、歯冠の一部が外に出ている「不完全埋伏歯」の場合、以下のような問題を引き起こすことがあります。

 1. 現代人は顎が細く小さくなったため、歯の位置がずれたり、横向きになったり、一部だけ見えるが歯茎に埋もれたままになったりする。清掃しにくいため歯茎の炎症を起こしやすい。

 2. 最も奥にあるため、歯ブラシが行き届きにくく虫歯になることが多い。

 3. 歯列矯正治療に先立ち邪魔になる。

 以上に加え、抜いてもかみ合わせには影響することが少ないため、現代人にとって大事な歯ではなくなっています。一方、存在することで害を及ぼす可能性が高いため、抜くことが多いのですが、適切に生えていないため抜歯するのも一苦労です。

 もちろん、問題なく生えている方もいます。その場合はあえて抜歯する必要はありません。親知らずといえど、大切な自分の体の一部の歯ですから、丁寧なメンテナンスを心掛けていただきたいと思います。

 日常的なケアとしては、主に以下のポイントを意識しましょう。

 1. 奥歯は磨き残しが多いため、丁寧に時間をかけてブラッシングする

 2. デンタルフロスや歯間ブラシを使って、歯と歯の間の汚れを落とす

 3. 痛みや腫れを感じたら放置せず、歯科医の診察を受ける

痛みや腫れを感じたら診察を

痛みや腫れを感じたら診察を

 古代の人類は食事の際に硬いものを摂取する機会が多かったため、親知らずは立派に役割を果たしていたでしょう。しかし、食生活の変化によって不必要になってしまったと考えられます。そのため、現代人の中には親知らず自体が生えてこない人も増えています。

 一方、抜かずに残しておく理由に歯の「移植」があります。親知らず以外の歯が何らかの理由で抜けてしまった場合、親知らずを抜歯して、無くなってしまった部位に移植することができます。もちろん、前歯や小臼歯ではサイズが合わないためできませんが、大臼歯であれば可能なことが多いです。

 しかし、これは親知らずが完全な形で抜歯できる場合に限ります。先ほど述べたように、横向きやずれている場合などは、歯を砕かなければならず、ドナーとしてふさわしくありません。

 ◇実際の抜歯

 では、実際の抜歯についてお話しします。

 真っすぐにしっかり生えていれば比較的抜歯しやすいです。通常、全部の親知らずがあれば、上下左右の4本です。上顎の場合は多少位置がずれていても比較的容易に抜歯は可能ですが、下顎で斜めになっている場合は歯を砕くことが必要で、難しい対応となります。

親知らずが完全に歯茎の中に埋まっていても他の歯へ悪影響が懸念される場合は抜歯が必要

親知らずが完全に歯茎の中に埋まっていても他の歯へ悪影響が懸念される場合は抜歯が必要

 歯茎や顎の骨の中に埋まっているケースもあります。この場合は歯茎を切開したり、顎の骨を削ったりすることも少なくありません。手術による負担が大きければ、術後の炎症症状(顎の腫れ、痛み、開口困難、のどの痛みなど)は強くなります。

 さらに、下顎の親知らずは根尖(歯の根の先)が骨の中の神経に近い場合もあり、抜歯後の後遺症として下唇周辺や舌のまひやしびれが残ってしまうケースもあります。必ず残るわけではないですが、発生すれば回復に数カ月を要することもあり、まひやしびれがなくならない場合もあります。

 以上のように、親知らずへの対応は通常の抜歯に比べリスクを伴うケースも多いのです。気になるようであれば、まずかかりつけの歯科医にご相談いただき、抜くべきかどうかを含め、詳しい説明を聞くようにしてください。抜歯が必要で、非常に難しい治療であれば、専門の医療機関(口腔外科)を紹介されることもあります。

 親知らずは、正しく管理すれば必ずしも恐れる必要はありません。しかし、トラブルが起きた際に適切に対処することが重要です。正しい知識を持ち、日々のケアと定期的な歯科検診を通じて健康な口腔環境を維持しましょう。(了)


角田智之(つのだ・ともゆき)

 歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。

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