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口内炎は受診した方がいい? 【第5回】
口内炎とは、口内およびその周辺の粘膜に起こる炎症のことです。多くは輪郭がはっきりした一般的なアフタ性口内炎であり、1~2週間で治癒することがほとんどです。このほか、誤って口の中をかんでしまったり、やけどしたりした後には、炎症の境界線がはっきりしないカタル性口内炎ができます。どちらも部位によっては痛みを強く感じる場合もあるでしょう。

放置してはいけない口内炎もある
口内炎は放置しておいてもそのうち治ると考える人が多いと思います。今回は、放置していい口内炎かどうか、見極める方法を解説します。
放置してはいけないのは「がん」です。がんに関しては「ずっと同じ部位にある」といった、期間と部位を目安にしてください。その他にも放置していけない疾患があります。急に口内炎がたくさんできて、発熱や顎のリンパ節の腫れなどがあれば、ウイルス性口内炎の可能性があります。治ったりできたりを繰り返す場合は自己免疫疾患の口腔内症状かもしれません。
私の経験をお伝えします。高齢の女性で、下唇に1カ月以上治らない大きな口内炎があったため受診されました。特に歯でこすれていたり、入れ歯が当たったりするといった原因は見当たりません。がんを疑い、病変の一部を採取し検査しましたが、がん細胞は発見できず、結局は外科的に切除して治りました。
いずれにしても、口内炎が2週間から1カ月以上続く場合は、ほっておかずに医師に診てもらってください。
◇放置するとがんになる?
口内炎がすべて口腔がんになるわけではありません。ただ、口腔がんの初期症状を口内炎と思ってしまい、放置したままにしないように注意が必要です。
口腔がんの初期症状は一般的な口内炎と似ていて、腫れや痛みを伴うこともあります。また、痛みがない場合もあります。「何かしこりがあって気になる」と言って受診される方もいます。このほか、虫歯などで歯が欠けたままの状態にしておくと口腔粘膜を慢性的に傷付け、そこからがんが発生してしまう場合もあります。
◇重症化しやすい人は

疲れやストレスをため込むと重症化も
疲れやストレスをため込んでしまっている人は重症化しやすいと言えるでしょう。疲れやストレス、睡眠不足などは体の免疫機能を著しく低下させます。その結果、口内炎が治らず広がってしまうこともあります。
このほか、虫歯や歯周病をほったらかしにしたままで、歯科医を何年も受診していないなど、口腔内環境の悪化によって局所的な免疫低下が引き起こされ、重症化しやすいことも考えられます。また、最近増えている性感染症(梅毒、淋病など)による口腔内症状として口内炎が現れることもあるので注意が必要です。
◇怖くて受診できない
「もしも、がんだったらどうしよう」といった怖さもあるかもしれませんが、思い切って医師に診てもらってください。ほとんどが一般的な口内炎であり、安心できると思います。本当にがんだったとしても、早期に治療すれば完治できます。
効果的な予防策は定期的な歯科医院への受診です。歯科は何も症状がなくても受診できる診療科です。特に口の中の変化は本人が気付きにくいので、歯や歯茎のメンテナンスの時に専門家にチェックしてもらい、気になれば気軽に相談してみてください。きっと、的確なアドバイスを受けられるでしょう。
◇早く治すために
早く治すのに大事なのは、やはり体調、ストレス管理です。もし不摂生な生活が続いており、口内炎が頻繁にできるのであれば、体からの「危険な状態」との警告です。症状だけに固執せず、ベースとなる生活習慣を見直す良い機会になるかもしれません。
ビタミン剤や塗り薬などの市販薬で済ませることもできますが、受診すれば医師の診断の下に処方薬を使うことができます。場合によってはレーザー治療を受け、早く治すことも可能でしょう。(了)

角田智之(つのだ・ともゆき)
歯科医師・歯科医師臨床研修指導医・日本選択理論心理学会認定選択理論心理士。明海大学卒業後、日本大学医学部歯科口腔外科学教室、久留米大学医学部口腔外科学教室などを経て、2008年に福岡市で「つのだ歯科口腔クリニック」(現在は「つのだデンタルケアクリニック」)を開設した。
(2025/02/20 05:00)
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