「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」の腸内環境改善効果を確認
アサヒグループ食品株式会社
2024年5月25日 第78回日本栄養・食糧学会大会にて発表
アサヒグループ食品株式会社(社長:川原浩 本社:東京都墨田区)と株式会社メタジェン(社長:福田真嗣 本社:山形県鶴岡市)は、「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」がそれぞれ腸内環境を改善する効果を確認しました。この研究成果について、2024年5月25日に第78回日本栄養・食糧学会大会(福岡県福岡市)(2024年5月24日~26日)にて発表を行いました。本研究については今後も詳細なメカニズムの解明を進めるとともに、引き続き、酵母由来成分のヒトに対する健康維持についての研究を進める予定です。
<以下詳細内容> 注釈の用語解説は最後にまとめて記載しています。
■研究背景
アサヒグループではビール製造工程で発生する副産物である「ビール酵母」と、酵母エキス製造過程で得られる副産物である「パン酵母由来の酵母細胞壁」の有効活用に向け、様々な機能性研究を行っています。酵母はグルカンやマンナンなどの食物繊維を含み、食物繊維は大腸に到達すると、腸内細菌によって利用されこれらの菌を増やすことが報告されています。中でも一部の腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸※1は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが示唆されています。このような背景から、食物繊維を含む「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」を対象とし、腸内フローラ※2および短鎖脂肪酸に対する作用を評価しました。
■研究方法
試験1:乾燥ビール酵母、試験2:パン酵母由来の酵母細胞壁を評価検体とした2試験について、株式会社メタジェンが保有しているヒト糞便を用いたin vitro ハイスループット評価系 MGScreeningTMにて解析を行いました。具体的には、6 名の健常者から採取した便を培地に混合し、評価サンプルを添加して16時間の嫌気培養※3を実施しました。培養後、培養液からDNAおよび代謝物質の抽出を行い、腸内フローラおよび短鎖脂肪酸の解析を実施しました。
■研究結果
試験1:乾燥ビール酵母が腸内に及ぼす効果についての検証
乾燥ビール酵母を添加することにより、培養液中に含まれる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示すことが分かりました(図1)。また、培養後の腸内フローラを解析したところ、細菌の平均相対存在比に有意な変化は見られませんでした。以上の結果より、乾燥ビール酵母は、短鎖脂肪酸の産生増強に寄与することが示唆されました。
図1. 乾燥ビール酵母添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p<0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
また、乾燥ビール酵母と同時に、プロバイオティクス素材※4であるアシドフィルス菌、フェカリス菌、ビフィズス菌を添加すると、乾燥ビール酵母だけを添加した時と同様に、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示しました(図2)。さらに、乾燥ビール酵母のみを添加した結果と乾燥ビール酵母+プロバイオティクス素材を添加した結果を比較したところ、プロバイオティクス素材を同時に添加することで、プロピオン酸の産生がさらに増強されることが分かりました(図2)。(p=0.028)
図2. 乾燥ビール酵母および、プロバイオティクス素材添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p < 0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加、
#:p < 0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.乾燥ビール酵母)
以上の結果より、乾燥ビール酵母は、腸内環境改善に寄与できるプレバイオティクス※5効果を有することが示唆されました。また、プロバイオティクス素材と組み合わせることで、プロピオン酸の産生がより増強されたことから、乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材(アシドフィルス菌・フェカリス菌・ビフィズス菌)の組み合わせはシンバイオティクス※6効果を有する可能性が考えられます。
試験2:パン酵母由来酵母細胞壁が腸内に及ぼす影響についての検証
パン酵母由来の酵母細胞壁を添加することにより、培養液中に含まれる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示すことが分かりました (図3) 。 また、培養後の腸内フローラを解析したところ、パン酵母由来の酵母細胞壁の添加により、酪酸を産生する菌であるFaecalibacterium属およびButyricicoccus属の相対存在比について増加傾向が認められました(図4)。以上の結果より、パン酵母由来の酵母細胞壁は、短鎖脂肪酸の産生を増強することが明らかになりました。特に酪酸においては、基質となる酢酸増加および、酪酸産生菌を増やすことの双方から酪酸産生を増強することが示唆されました。
図3. パン酵母由来の酵母細胞壁添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p<0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
図4. パン酵母由来の酵母細胞壁添加後の酪酸産生菌の相対存在比
(†:0.05<p<0.10, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
■今後の展望
今回実施したヒト糞便を用いたin vitro 培養系を用いた試験により、乾燥ビール酵母・パン酵母由来の酵母細胞壁ともに短鎖脂肪酸の産生を増強し、プレバイオティクス素材として機能することが示唆されました。さらに、乾燥ビール酵母については、プロバイオティクス素材(アシドフィルス菌・フェカリス菌・ビフィズス菌)と組み合わせにより、シンバイオティクス効果も示唆されました。これにより、両成分ともに腸内環境改善効果を有することが確認できました。
本研究でプレバイオティクス効果が示唆されたパン酵母由来の酵母細胞壁においても、プロバイオティクス素材を組み合わせることで、シンバイオティクス効果が得られる可能性が考えられるため、今後検証を進める予定です。
また、乾燥ビール酵母・パン酵母由来の酵母細胞壁により増加した短鎖脂肪酸は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが報告されています(図5)。
今後より詳細な機能性、作用機序の解明を目指します。
図5.短鎖脂肪酸の作用
(出典: H Shimizu et al., 2019、安藤 朗,2015から引用)
■用語解説
※1:短鎖脂肪酸
腸内細菌によって作られる有機酸のうち、炭素の数が6個以下のものを指す。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがある。腸内細菌が食物繊維を分解することで産生される。腸内を弱酸性環境にすることで、有害な菌の増殖抑制・蠕動運動促進・免疫反応の制御に関与すると考えられている。
※2:腸内フローラ
ヒトや動物の腸内にいる多種多様な腸内細菌全体。腸内では腸管の表面がびっしりと腸内細菌で埋め尽くされており、植物が群生している叢(くさむら)に例えられることから、腸内フローラ(細菌叢)と呼ばれている。
※3:嫌気培養
酸素が存在しない環境で培養すること。今回の実験ではヒト大腸内の環境を再現する目的で使用した。
※4:プロバイオティクス
腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物。
※5:プレバイオティクス
消化管に常在する有用な細菌を増殖させたり、活性を変化させたりすること、または宿主に有益な影響を与えることにより、宿主の健康を改善する食品成分。
※6:シンバイオティクス
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたもの。この2つを組み合わせることにより、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを目指している。
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2024年5月25日 第78回日本栄養・食糧学会大会にて発表
アサヒグループ食品株式会社(社長:川原浩 本社:東京都墨田区)と株式会社メタジェン(社長:福田真嗣 本社:山形県鶴岡市)は、「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」がそれぞれ腸内環境を改善する効果を確認しました。この研究成果について、2024年5月25日に第78回日本栄養・食糧学会大会(福岡県福岡市)(2024年5月24日~26日)にて発表を行いました。本研究については今後も詳細なメカニズムの解明を進めるとともに、引き続き、酵母由来成分のヒトに対する健康維持についての研究を進める予定です。
<以下詳細内容> 注釈の用語解説は最後にまとめて記載しています。
■研究背景
アサヒグループではビール製造工程で発生する副産物である「ビール酵母」と、酵母エキス製造過程で得られる副産物である「パン酵母由来の酵母細胞壁」の有効活用に向け、様々な機能性研究を行っています。酵母はグルカンやマンナンなどの食物繊維を含み、食物繊維は大腸に到達すると、腸内細菌によって利用されこれらの菌を増やすことが報告されています。中でも一部の腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸※1は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが示唆されています。このような背景から、食物繊維を含む「乾燥ビール酵母」と「パン酵母由来の酵母細胞壁」を対象とし、腸内フローラ※2および短鎖脂肪酸に対する作用を評価しました。
■研究方法
試験1:乾燥ビール酵母、試験2:パン酵母由来の酵母細胞壁を評価検体とした2試験について、株式会社メタジェンが保有しているヒト糞便を用いたin vitro ハイスループット評価系 MGScreeningTMにて解析を行いました。具体的には、6 名の健常者から採取した便を培地に混合し、評価サンプルを添加して16時間の嫌気培養※3を実施しました。培養後、培養液からDNAおよび代謝物質の抽出を行い、腸内フローラおよび短鎖脂肪酸の解析を実施しました。
■研究結果
試験1:乾燥ビール酵母が腸内に及ぼす効果についての検証
乾燥ビール酵母を添加することにより、培養液中に含まれる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示すことが分かりました(図1)。また、培養後の腸内フローラを解析したところ、細菌の平均相対存在比に有意な変化は見られませんでした。以上の結果より、乾燥ビール酵母は、短鎖脂肪酸の産生増強に寄与することが示唆されました。
図1. 乾燥ビール酵母添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p<0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
また、乾燥ビール酵母と同時に、プロバイオティクス素材※4であるアシドフィルス菌、フェカリス菌、ビフィズス菌を添加すると、乾燥ビール酵母だけを添加した時と同様に、短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示しました(図2)。さらに、乾燥ビール酵母のみを添加した結果と乾燥ビール酵母+プロバイオティクス素材を添加した結果を比較したところ、プロバイオティクス素材を同時に添加することで、プロピオン酸の産生がさらに増強されることが分かりました(図2)。(p=0.028)
図2. 乾燥ビール酵母および、プロバイオティクス素材添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p < 0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加、
#:p < 0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.乾燥ビール酵母)
以上の結果より、乾燥ビール酵母は、腸内環境改善に寄与できるプレバイオティクス※5効果を有することが示唆されました。また、プロバイオティクス素材と組み合わせることで、プロピオン酸の産生がより増強されたことから、乾燥ビール酵母とプロバイオティクス素材(アシドフィルス菌・フェカリス菌・ビフィズス菌)の組み合わせはシンバイオティクス※6効果を有する可能性が考えられます。
試験2:パン酵母由来酵母細胞壁が腸内に及ぼす影響についての検証
パン酵母由来の酵母細胞壁を添加することにより、培養液中に含まれる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、未添加時と比較して有意に高い値を示すことが分かりました (図3) 。 また、培養後の腸内フローラを解析したところ、パン酵母由来の酵母細胞壁の添加により、酪酸を産生する菌であるFaecalibacterium属およびButyricicoccus属の相対存在比について増加傾向が認められました(図4)。以上の結果より、パン酵母由来の酵母細胞壁は、短鎖脂肪酸の産生を増強することが明らかになりました。特に酪酸においては、基質となる酢酸増加および、酪酸産生菌を増やすことの双方から酪酸産生を増強することが示唆されました。
図3. パン酵母由来の酵母細胞壁添加後の培養液中の短鎖脂肪酸濃度
(*:p<0.05, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
図4. パン酵母由来の酵母細胞壁添加後の酪酸産生菌の相対存在比
(†:0.05<p<0.10, ウィルコクソンの符号順位検定, vs.未添加)
■今後の展望
今回実施したヒト糞便を用いたin vitro 培養系を用いた試験により、乾燥ビール酵母・パン酵母由来の酵母細胞壁ともに短鎖脂肪酸の産生を増強し、プレバイオティクス素材として機能することが示唆されました。さらに、乾燥ビール酵母については、プロバイオティクス素材(アシドフィルス菌・フェカリス菌・ビフィズス菌)と組み合わせにより、シンバイオティクス効果も示唆されました。これにより、両成分ともに腸内環境改善効果を有することが確認できました。
本研究でプレバイオティクス効果が示唆されたパン酵母由来の酵母細胞壁においても、プロバイオティクス素材を組み合わせることで、シンバイオティクス効果が得られる可能性が考えられるため、今後検証を進める予定です。
また、乾燥ビール酵母・パン酵母由来の酵母細胞壁により増加した短鎖脂肪酸は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが報告されています(図5)。
今後より詳細な機能性、作用機序の解明を目指します。
図5.短鎖脂肪酸の作用
(出典: H Shimizu et al., 2019、安藤 朗,2015から引用)
■用語解説
※1:短鎖脂肪酸
腸内細菌によって作られる有機酸のうち、炭素の数が6個以下のものを指す。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがある。腸内細菌が食物繊維を分解することで産生される。腸内を弱酸性環境にすることで、有害な菌の増殖抑制・蠕動運動促進・免疫反応の制御に関与すると考えられている。
※2:腸内フローラ
ヒトや動物の腸内にいる多種多様な腸内細菌全体。腸内では腸管の表面がびっしりと腸内細菌で埋め尽くされており、植物が群生している叢(くさむら)に例えられることから、腸内フローラ(細菌叢)と呼ばれている。
※3:嫌気培養
酸素が存在しない環境で培養すること。今回の実験ではヒト大腸内の環境を再現する目的で使用した。
※4:プロバイオティクス
腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物。
※5:プレバイオティクス
消化管に常在する有用な細菌を増殖させたり、活性を変化させたりすること、または宿主に有益な影響を与えることにより、宿主の健康を改善する食品成分。
※6:シンバイオティクス
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたもの。この2つを組み合わせることにより、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを目指している。
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(2024/05/27 14:00)
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