コミック『宇宙兄弟』の登場人物で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の根治に向け研究にいそしむ伊東せりかの名を冠し、同疾患の研究者に研究費を助成する「せりか基金」賞。その第8回授賞式が2024年12月13日に東京で開催された。今回の受賞者は、徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学講座薬物治療学教授の金沢貴憲氏ら3人で、各人に同基金賞の助成金総額800万円が交付された(関連記事「『宇宙兄弟』生まれのALS研究基金、4人に助成」)。
ALSの薬物送達方法や危険因子、関連因子についての研究に基金
今回の1位受賞者(助成額300万円)である金沢氏の研究は、「家族性ALSの発症早期からの長期的治療を目的とした非侵襲的な核酸ナノ医薬の開発」がテーマ。治療薬を送達させることに困難を伴うALSなどの中枢神経系の疾患において、鼻から脳に至る薬物送達ルートを基盤とする非侵襲的かつ自己服用可能な核酸ナノ医薬の開発を進めているという。
2位受賞者(助成額300万円)である法政大学マイクロ・ナノテクノロジー研究センター客員研究員で准教授の石黒亮氏が取り組んでいる研究テーマは、「牟婁病(ALS/PDC)の危険因子と疑われるリチウム同位体効果の研究」。ALSの一亜型である牟婁病において、リチウム同位体によって惹起される軸索内mRNA輸送破綻の分子病態を解析するとともに、発症リスクの排除による疾病の根絶を目的とした基礎研究が評価された。
3位受賞者(助成額200万円)である徳島大学先端酵素学研究所教授の齋尾智英氏の研究テーマは、「液-液相分離の品質管理機構から解き明かすALSの分子病態」。この研究において齋尾氏は、ALSの関連因子の多くが生体内で自己集合し液-液相分離(LLPS)液滴を形成し、その制御不全が蛋白質凝集体やアミロイド線維の形成につながるという考え方に注目。LLPS液滴の制御を担う蛋白質であるシャペロンへのアプローチを通じて、LLPSの制御と制御不全のメカニズム解明を目指す。
過去の助成金は実験に用いる核酸やモデルマウスの作製や維持に
また授賞式では、一昨年(2023年)発表された第7回せりか基金の受賞者が、助成金の活用状況をビデオメッセージで報告。東京科学大学脳神経病態学分野の三浦元輝氏は、「核酸医薬の開発に用いる核酸を用意するための費用に用いている」と説明。大阪公立大学大学院医化学研究室准教授の及川大輔氏は、「ALSモデルマウスを必要量確保するために使用しており、マウス実験が円滑に進むようになった」と助成金の意義を実感とともに強調した。また、名古屋大学環境医学研究所病態神経科学分野の大岩康太郎氏は、実験において多大な時間を要する作業の外注化に、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)准教授の城谷圭朗氏は、作製した実験用マウスの維持にそれぞれ助成金を活用していると報告した。
写真. 第8回せりか基金賞受賞者(左から金沢氏、石黒氏、齋尾氏)
(編集部・陶山慎晃)