治療・予防

歩きスマホの危険性
~視界狭まり歩行も不安定に(京都大学大学院 野村泰伸教授)~

 歩行中のスマホ操作、いわゆる歩きスマホが衝突や転倒リスクになることは周知の事実だ。その要因は、スマホの画面を注視することで視界が狭まり、目の前や足元が見えにくくなるためと考えられている。京都大学大学院情報学研究科(京都市左京区)の野村泰伸教授の共同研究グループの実験により、別の要因も関与している可能性が示された。

歩きスマホでは、脳の情報処理能力に負荷がかかる

歩きスマホでは、脳の情報処理能力に負荷がかかる

 ◇歩行の安定性を検証

 東京消防庁のデータによると、2015~19年の5年間に歩きスマホなどによる事故で救急搬送された人のうち、「ぶつかる」が41.7%、次いで「転ぶ」が30.3%だった。事故発生当初の動作別に見ると、「操作しながら」(39.3%)と「画面を見ながら」(28.4%)が7割弱を占めた。
 今回、野村教授らの研究グループは、運動機能に障害のない健康な若者44人(男性39人、女性5人、平均年齢22.6歳)を対象に実験。一定速度で回転するベルト(トレッドミル)の上を〔1〕通常歩行〔2〕非認知課題歩行(真っ暗なスマホ画面を見ながら歩く)〔3〕認知課題歩行(スマホゲームをしながら歩く)―の3パターンの歩き方で歩いてもらい、歩行リズムの変動(揺らぎ)を計測し、歩行の安定性などを比較した。

 ◇二つの課題に脳が対応

 歩行パターンごとに30分ずつ歩いてもらった結果、平均的な歩行リズムはいずれのパターンでも同等だった。一方、視覚から得られる周囲の情報量(周辺視覚情報)は非認知課題歩行および認知課題歩行で同程度に低下していたものの、歩行の安定性の指標となる数値は、認知課題歩行でのみ低下していた。

 「歩きスマホに伴う脳内情報処理が歩行の安定性を低下させていることが示唆されました。つまり、歩きスマホの衝突・転倒リスクには、周辺の視覚情報が欠如する外因性の要因に加え、スマホ操作に伴う脳内情報処理という内因性の要因が関わっていると考えられます」

 野村教授は長年、パーキンソン病の歩行障害の原因追求をテーマに研究を続けており、今回の結果はその研究にも重要な意義があると強調する。

 「我々は当たり前のように歩行をしていますが、実際には脳のあらゆる情報処理能力を駆使しています。歩行とスマホ操作という二つの異なる課題に対して脳機能が使われるため、普段なら問題のない場所で転倒するリスクが増えてしまいます」と警鐘を鳴らしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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