教えて!けいゆう先生

医療機関の悪い口コミに出会ったら?
気を付けるべきこと 外科医・山本健人

 患者さんから、こんな話を聞くことがあります。

 「あの先生はネットの口コミの評価が悪かったので不安です」

 「診療所や病院を選ぶ時は口コミを参考にしています」

 近年は何においても、自ら体験する前にネットのレビューや口コミを見られる時代です。

 映画や書籍、飲食店、美容院など、あらゆるサービスにおいて、他人の評価を簡単に知ることができます。これが多くの人にとって、「そのサービスにお金を払うかどうか」の大きな判断基準になっているのは間違いないでしょう。

 しかし、医療に関しても、他のサービスと同様に口コミを参考にできるのでしょうか?

医療に関する口コミ情報は注意したい

医療に関する口コミ情報は注意したい

 ◇医療を評価することの難しさ

 医療サービスは、他の商業的なサービスと比べて異質な点が幾つかあり、注意が必要だと感じます。
 まず、医療機関で提供されるサービスの中で、最も中核をなす「医療行為」そのものの質は、サービスを受ける顧客に専門知識がない限り、正確に評価するのが難しいという点です。

 「ある症状の患者さんに出された薬が、果たして適切だったのか」

 「行われた検査が、本当に必要なものだったのか」

 「治療を始めるタイミングは、早過ぎなかったか、あるいは遅過ぎなかったか」

 といった医学的な適切性は、専門家でなければ評価が難しいでしょう(時に専門家の間ですら意見が分かれることもあります)。

 一方、映画や書籍、ゲームなどは、「サービスを購入した本人がどう感じたか」が、その作品の質の大部分を表すと言ってよいはずです(時に素人では評価できない難解な芸術作品もあるのは理解しますが)。

 同様に、飲食店では「それを食べた本人がおいしいと感じたか否か」こそが、他の客にとって最も参考になる情報なのだと思います。

 もちろん医療機関でも、医師や医療スタッフの失礼な言葉遣いや、冷酷な態度が見られるなら、これは患者さんが評価できる側面だと思います。

 以上から言えるのは、医療機関に対する口コミを見る時は、「顧客が評価できる部分とできない部分」を区別する必要がある、ということです。

 ◇悪い口コミを見て不安になったら

 悪い口コミを見て不安になった時は、その一つだけで何かを判断しようとせず、その投稿者の他の口コミも見るようにするとよいでしょう。

 同じ投稿者が何度も不自然な投稿を繰り返していたり、主観に頼った一方的な意見だけを書いていたりすることもあるからです。

 また、短い時期に批判的な投稿が集中していて、不自然さに気付けることもあります。他の投稿も冷静に見て、早とちりしないよう注意する必要があるでしょう。

 そもそも口コミを投稿しようという人は、「口コミへの強い動機がある人だけ」という前提も知っておきたいところです。

 これを読むみなさんは、自分のかかっている医療機関に対して口コミを書いたことがありますか?
わざわざ自分の時間を割いて、口コミで言葉にするほど、医療機関に対して感情が動くことはめったにないのではないでしょうか?

 そう考えれば、口コミを書く動機は、「格別に良い思いをした」か「腹が立つほど嫌な思いをした」という両極になりやすく、必然的に、極端な意見が現れやすいことが分かります。

 口コミを参考にするのであれば、こうした口コミの特性を知っておくことも大切だと私は思います。(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。



【関連記事】


教えて!けいゆう先生