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静かな場所でもキーンという金属音やゴーという重低音が聞こえる―。耳鳴りに悩まされている人は少なくないが、耳鼻科に助けを求めても、「仲良く付き合っていくしかありません」と言われてしまう。しかし、2015年3月に耳鳴(じめい)外来を開設した神尾記念病院(東京都千代田区)の林賢医師は「耳鳴りはコントロール可能ですし、確実に軽減できるようになってきました」と話す。
◇9割が難聴伴う
耳鳴りは、難聴を伴う「難聴性耳鳴」と難聴を伴わない「無難聴性耳鳴」に大別できる。全体の9割を占める難聴性耳鳴は、音を電気信号に変えて脳内に伝える経路(聴覚路)に加齢などで障害が起き、音が聞こえにくくなることで、脳が緊張して耳鳴りを発生させる仕組みだ。無難聴性耳鳴は、いまだに原因不明だが、顎や首、肩などの筋肉の痛みが刺激となり、脳を緊張させ、耳鳴りを発生させるとも考えられている。
これまで耳鳴りは治らないと言われてきた。難聴性の場合、聴覚細胞が弱って異常信号を出すことで耳鳴りが起きるが、弱った細胞の修復は困難と考えられてきたからだ。しかし、最近の研究結果で、脳内の苦痛やストレスを感じる部分が「苦痛ネットワーク」を形成し、それが耳鳴りの発生に影響していることが分かってきた。
医師に完治できないと言われて症状が悪化したと感じる人も多く、耳鳴りは精神的な影響が大きいという。「耳鳴りと仲良くしていくということは、患者さんに『治りません』と言っているようなもので逆効果です。そうした不安を取り除けば苦痛を緩和できるとも言えるのです」
◇ハイブリッド治療
治療に用いられるのが、自律訓練法と呼ばれるヨガに似たリラクセーション法だ。これは自己暗示をかけて体を動かし、心身の緊張や不安を解きほぐすというものだ。
同病院では、このほかに以前からの補聴器、治療音を出すサウンドジェネレーターという機能のある耳鳴用補聴器を使用して耳鳴りを気にしないよう脳を慣らす音響療法、はり治療、混合ガス治療―を組み合わせて治療している。その結果、耳鳴りが気にならなくなったという人が確実に増えているという。ただ、一部の治療は保険適用外となっている。
「耳鳴りはしているけれど気にならない、が治療のポイント。これは、忘れるという人間の脳の特性を利用した治療法です。耳鳴りが気にならない状況が半年から1年続くと、耳鳴りそのものを忘れてしまいます」と林医師。医学的治療と心理療法的治療のハイブリッドともいえる試みが、絶え間ない耳鳴りに苦しむ人への朗報となりそうだ。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
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