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白内障手術の課題と未来 【第10回(最終回)】

 白内障に関する連載も今回で10回目になります。これまでに、現在の白内障手術の技術的な部分や重要な考え方について話を進めてきました。私自身がこの連載やオウンドメディア、YouTubeで情報発信している最大の目的は、皆さんがより良い手術を受け、その後の生活を快適に送れるようになることです。発信した情報に対して皆さんからも多くの声が寄せられ、手術の問題点が具体的に見えるようになりました。

医師と患者では白内障手術に対する思いが違う(イメージ画像)

医師と患者では白内障手術に対する思いが違う(イメージ画像)

 ◇医師と患者にギャップ

 問題点の中で私が危惧していることの一つが、手術の目的をめぐり、医療者と皆さんとの間に相当なギャップがあるのではないかという点です。

 誤解を恐れずに言えば、経営上の観点からは患者数を増やし、効率的に手術を行い、収益を上げることが重要になります。保険診療で行われる診察・検査・手術は、どれだけ労力と時間を使っても、厚生労働省が定めた保険点数以上の診療報酬を請求できないからです。人件費から消耗品、医療機器に至るまで全ての価格が高騰しているにもかかわらず、報酬改定はすずめの涙ほど。ランニングコストを皆さんの診療費に上乗せできないため、効率化で利益確保を目指します。

 一方で、皆さんの目的は今も昔も、よりよく見えることに他なりません。医療者側が効率性を重視し過ぎて設備投資を怠ると、その目的を達成する可能性は下がってしまいます。このギャップを埋めるには、医療者の意識改革に頼るのではなく、手術を受ける皆さんがより多くの正しい情報を基に受診した医療機関で声を上げ、現状を変えていくしかないのかもしれません。

 ◇治療進歩も道半ば

 過去の白内障手術は、いかに体への負担を少なく、また合併症を生じさせずに終えるかに主眼が置かれ、術後は眼鏡を掛けてよく見えればよいというものでした。現在では手術装置や眼内レンズ、検査機器などの飛躍的な進歩により、術後の生活をより快適に送れるようになりました。しかし、まだ道半ばです。

 検査やカウンセリング、手術方法や眼内レンズの種類などによっては保険診療の他に選定療養や自由診療もあり、どれを選択するかでできることは違います。それぞれに長所があるものの、現在の自由診療は利益優先と捉えられかねない問題を多く含んでいるように見えます。これらの特徴についても、いつか説明できる機会があれば幸いです。

手術の将来にはさまざまな可能性が広がる(イメージ画像)

手術の将来にはさまざまな可能性が広がる(イメージ画像)

 ◇AI活用拡大、レンズ進化へ

 白内障治療の未来を考えてみましょう。

 手術をしないでも健康な水晶体に戻せるような治療が実現できるかもしれません。ただ、可能になったとしても10~20年先の話ではないでしょうか。少なくともこの記事を読んでいる皆さんの世代では、やはり手術の技術的進歩が何よりも大切です。

 他方で、人工知能(AI)が診断を下し、適切な手術を行うタイミングを推奨してくれるでしょう。レンズでは、老視矯正タイプの弱点であるコントラスト低下や異常光視現象などを克服した製品が必ず登場。新しい技術の開発により、調節型レンズなどの製品化も予想されます。さらに、フェムトセカンドレーザーに代表されるような新技術を組み合わせた手術装置が進化し、全自動化や遠隔操作などが可能になるかもしれません。

 手術に関する技術革新は、企業が新しい製品を作ったからといって必ず起こるものではありません。医師や皆さんがその製品のメリットとデメリットを評価し、広く受け入れることで初めて起こるのです。私の使命は白内障手術の正しい情報を多くの皆さんと共有し、新しい技術を正しく評価・活用し続けていくことだと考えています。

大切なのは患者の充実した生活だ(イメージ画像)

大切なのは患者の充実した生活だ(イメージ画像)

 ◇重視したい術後の暮らし

 白内障手術をめぐる現在の複雑な諸事情の中にあっても、見失ってはいけないものがあります。効率化の名の下に利益を優先させるがゆえに軽視されがちなこと、すなわち手術を受ける皆さんそれぞれのライフスタイルをしっかり把握し、術後の人生をより豊かにすることです。当たり前のようで当たり前に行われていない現状を変えるべく、全力を尽くします。(了)


渡邊敬三院長

渡邊敬三院長


渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
 近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。
 診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。

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