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「寝る子は育つ」本当? 第4回

 昔から「寝る子は育つ」といわれています。ですから、近年、子どもの睡眠時間が短縮していることが、成長面で悪影響を与えるのではないかという危惧を耳にすることがあります。本当でしょうか。

 実際のデータを見てみましょう。図は、厚生労働省による国民健康・栄養調査(2019年)の結果で、各年齢の身長を示しています。縦軸が身長で横軸が年齢、青丸の線が男性で、赤丸の線が女性です。男性の身長は14歳までに急激に伸びます。それから17歳までは緩やかで、その後に止まります。女性も13歳までは急激に伸び、22歳までは緩やかで、その後止まります。骨の成長は13~14歳までが最も大切だということが見えてきます。

 ◇睡眠時間と身長

 では睡眠時間の長短は成長に影響しているのでしょうか。図は、人口密度が低い「地方型」と言ってもよい北海道と各県の中学2年生男子の睡眠時間と身長の関係を示しています。人口密度の高い「都市型」と地方型では成長に対する条件が違いますので、人口密度が平均の半分以下の地方型の道と県だけを選び出しました。年齢については、14歳までが身長の発育のピークという点を考え、中学2年生を対象にしています。

「地方型」中学生の睡眠時間と身長

「地方型」中学生の睡眠時間と身長

 縦軸が身長で横軸が睡眠時間です。赤の点線が傾向を示す近似直線で、左上に近似直線の数式と決定係数、有意確率を示しています。近似直線は右肩上がりになっていますので、睡眠時間が長いほど身長が高くなる傾向を示しています。

 ◇日照時間短いと睡眠時間長い

 青丸で示している県は、日本で12月から翌年の2月までの日照時間が最も短い7県で、県名の横の番号はその順位を示しています。秋田県や青森県のように、冬の日照時間が短いと結果的に睡眠時間が長くなり、身長が高くなっていることが分かります。東北や北陸、北海道の日本海側の冬は、曇りや雨、雪が多く、午後も早くから暗くなりますので、睡眠時間も9時間近くなります。

 都市型の都府県と女性では、「寝る子は育つ」という関係は成り立ちにくいようです。ただ、現在および過去にメジャーリーグに在籍した日本の男性選手は、身長が伸びる条件を満たしている地域の出身者が多く、高身長であることも事実です。

 子どもの身長を伸ばしたいのであれば、中学生までは、遅くとも午後10時には寝室を暗くし、眠らせることが大切です。条件が整えば、都会型の子どもも背が伸びる可能性があります。(了)

 遠藤医師の睡眠講座


 遠藤 拓郎(えんどう たくろう)

 スリープクリニック調布院長。米スタンフォード大学医学部客員教授。1987年東京慈恵会医科大学卒業。後、米スタンフォード大、スイス・チューリッヒ大、米カルフォルニア大へ留学。帰国後東京慈恵会医科大助手などを経てスリープクリニックを開業し、不眠症治療に携わる。その一方で 慶應義塾大学医学部特任教授を経て2023年より現職。睡眠や不眠症に関する著書多数。近著に「最強の昼寝法 ~日本人の処方箋~」(扶桑社)。YouTubeでも情報発信。


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