教えて!けいゆう先生

意外に知らない点滴の仕組み・続編
~クレンメとチャンバーとは?~ 外科医・山本 健人

 前回の記事では、「点滴をしている最中は針が刺さっているわけではない」という話題を扱いました。

 注射する瞬間には針が刺さりますが、その後は、軟らかい管だけを血管内に残し、針は抜いています(一部の例外は除きます)。

 このことは意外に知られておらず、「針が刺さったまま」だと思って恐怖心を感じていた人も多くいるようです。かくいう私自身も、医師になる前はそう思い込んでいた、というのは前回の記事で書いた通りです。

ポタポタの速度を調節するクレンメ(筆者作画)【時事通信社】

 さて、点滴の仕組みには、意外に知られていない仕組みが他にもあります。

 それが、「クレンメ」と「チャンバー」です。

 いずれも、非常にシンプルな仕組みです。

 ◇クレンメで速度調節

 点滴の管の途中には、クレンメという仕組みがあります。

 医療ドラマなどで、看護師が手で操作している姿を見ることも多いでしょう。

 この仕組みの用途は、点滴の速度調節です。

 そもそも点滴の目的は、血管内に水分や電解質、薬剤などを注入することですが、この投与速度は厳密に決められる必要があります。

 同じ500ミリリットルの製剤でも、30分で投与すべきときもあれば、12時間かけてゆっくり投与すべきときもあります。

 この速度を、管の途中のクレンメを使って調節しているのです。

 クレンメの仕組みはシンプルで、車輪のような丸い部品を移動させることで管を押し潰し、その通り道の幅を変化させます。通り道が狭くなれば液体の通過は遅くなり、広くなれば速くなる。実に原始的で便利な仕組みです。

 しかしながら、ごく微量の調節が必要な薬剤を投与する際は、この仕組みは使えません。

 例えば「1時間当たり1ミリリットル」のような、ごく微量の投与が必要な薬は多くあります。このような薬では、「ポタポタ」のたった一滴でも過量になり得ます。

ポタポタの速度を観察するためのチャンバー(筆者作画)【時事通信社】

 この場合はクレンメではなく、電動のポンプを用いて速度調節が行われます。投与する薬剤によって、速度調節に用いる仕組みを使い分けているのです。

 ◇チャンバーで速度観察

 点滴の途中に透明な管があり、その中を水滴がポタポタ落ちている。これもまた、よく知られた仕組みだと思います。

 この「ポタポタ」が、「点滴」という言葉の由来でもあります。

 この透明な管のことを、「チャンバー(点滴筒)」と呼びます。

 前述の通り、クレンメを使って点滴の速度を調節する際は、チャンバーの中を落ちるポタポタの速度を観察します。

 医療ドラマなどで、看護師がクレンメを操作するシーンを思い出してみてください。

 片手でクレンメを握りながら、視線はチャンバー内の「ポタポタ」と、もう一方の手に持った時計を行ったり来たりしているはずです。

 「何秒間に何滴落ちたか」を慎重に観察して、点滴の速度を調節しているわけです。

 医療現場で用いられる道具の中には、専門知識がなくても容易に理解できるものが多くあります。

 知っているだけで、不安感は軽減するのではないでしょうか。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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