教えて!けいゆう先生

意外に知らない点滴「針」の仕組み
~採血とは何が違うのか~ 外科医・山本 健人

 幼い頃、自宅近くのクリニックで初めて点滴をした時のことを、今でもよく覚えています。

 何か体調を崩してクリニックに行き、点滴が必要だと判断されたのだと思います。

点滴の注射針部分のイラスト【時事通信社】

点滴の注射針部分のイラスト【時事通信社】

 医師の指示で、私は診察室の奥にあるベッドに横たわり、点滴を受けました。

 左手首には白い包帯のようなものが巻かれ、そこから出た細い透明の管が、液体の入った袋につながっています。

 初めての体験に、私は何やら誇らしい心持ちでした。同時に、手を決して動かしてはいけない、と緊張していたのも覚えています。

 良からぬ方向に針が刺さってしまう、と思っていたからです。

 ところが、医師になって点滴を行うようになると、その意外な仕組みに私は驚くことになります。

 点滴中は「針が刺さっている」わけではなかったからです。

 ◇実に合理的

 点滴は、その多くが「末梢(まっしょう)静脈留置カテーテル」という細長い管を血管内に挿入することによって行われます。

 プラスチック製の軟らかい「管」ですから、「針」ではありません。

 つまり、点滴をしている最中は、この管が血管内に置かれている状態で、針が刺さっているわけではありません。

 では、軟らかい管が、どのようにして皮膚を貫通するのでしょうか。

 そもそも点滴をする際にチクッとする、針が刺さったような痛みは何なのでしょうか。

点滴の注射針部分。1番上がカテーテル、真ん中が金属針で、カテーテルを上からかぶせた形の二重構造になっている【時事通信社】

点滴の注射針部分。1番上がカテーテル、真ん中が金属針で、カテーテルを上からかぶせた形の二重構造になっている【時事通信社】

 実は、点滴する際に用いる注射針は、二重構造になっています。

 軟らかいカテーテルの中に金属針が入っており、静脈内に挿入できた時点で、カテーテルだけを血管内に残して金属針を抜いているのです。

 とがった針は、皮膚と静脈の壁を貫通させる時にだけ必要です。

 液体を血管内に注入するという目的においては、先がとがっている必要はありません。そう考えれば、実に合理的な仕組みです。

 もちろん、点滴している最中にむやみに手を動かしてはいけません。

 カテーテルの先が曲がるなどして、点滴の速度が変わってしまう恐れがあるからです。

 とはいえ、針が刺さったままになっているわけではないので、手を動かしたせいで針が他の部位に刺さってしまう、などという心配はないのです。

 ◇採血の場合は

 一方、健康診断などで行われる採血はどうでしょうか。

 この場合は、皮膚に針を刺したら、必要な分量の血液を抜き取るまで針は刺さったままです。

翼のような持ち手がついている「翼状針」(筆者撮影)【時事通信社】

翼のような持ち手がついている「翼状針」(筆者撮影)【時事通信社】

 前述の点滴とは異なり、ほんの数十秒で終わる処置ですから、カテーテルを挿入する必要まではありません。

 採血の際に使われることの多い、この針のことを「翼状針」といいます。

 「翼状」という名前の通り、翼のような持ち手がついています。

 採血の際は、この「翼」を持って針を挿入しています。

 もちろん、ここまで書いてきたことは一般論で、例外もあります。

 短時間で終わる点滴であれば、主に採血時に使う翼状針を刺したまま行うこともあります。

 逆に、採血と点滴を同時に行うケースでは、末梢静脈留置カテーテルを挿入した後、そこから採血を行うこともあります。

 現場では、必要な医療行為に合わせて、適切に道具を使い分けているのです。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。


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