教えて!けいゆう先生

がんは「治る」のか?
ストレートに言えない理由 外科医・山本 健人

 重い病気にかかった人は、誰しも「自分の病気が治るのか」が気になります。私たち医師も、患者さんに病名を告げると、ほぼ必ず「治りますか?」という質問を受けます。

がんに「治る」という言葉を使うのは難しい【時事通信社】

 しかし、実は「治る」「治らない」の二択では、答えづらい病気が多くあります。中でも、代表的なのが、がんです。


 ◆がんの厄介な性質

 「がん」というのは、多くの異なる病気の総称です。大腸がんや胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなど、臓器が違えば、そのがんの性質も全く異なります。

 一方、多くのがんに共通する、厄介な性質があります。それが「再発」です。

 手術や抗がん剤、放射線治療など、強力な治療を施し、体内に肉眼で見えるがんがなくなる、あるいは、検査で体からがんが検出できなくなっても、容易に「治った」とは言えません。一定の確率で、再発が起こるからです。

 つまり、一見すると、治ったように思われても、目に見えないレベルでがん細胞が残っていて、これが再び増殖してくることがあるのです。

 例えば、大腸がんの患者さんが手術を受け、大腸を切り取って、がんを体から取り去っても、一定割合の人が再発を経験します。つまり、手術で大腸がんを切除したタイミングでは、まだ「大腸がんが治った」とは言えないのです。

 ◆大切なフォロー

 がんの患者さんは、治療を受けた後、比較的長い期間、通院を続けるのが一般的です。

 診察、血液検査、画像検査などを受け、再発の兆候を早期に知る必要があるからです。そうすることで、再発が起こっても、すぐに治療を始めることができます。

 再発に備えて通院を続けている期間を、「治った」とは言えないでしょう。

 では、がんの患者さんは、一体、いつ「治った」と言えるのでしょうか。がんに「治る」という言葉を使うのが難しい理由は、ここにあるのです。

 一方、過去の膨大なデータを解析すれば、「ある一定の期間、再発がなければ、それ以後に再発が起こる可能性は著しく低い」と予測することはできます。がんの種類によって、その「期間」は異なります。

 例えば、大腸がんや胃がんの場合、術後5年間、再発がなければ通院を終了するのが一般的です(診療ガイドラインで推奨された期間です)。

 むろん、「それ以後は決して再発しない」という意味ではありません。「健康な人と同じくらいの警戒度に戻してもよい」ということです。

 今や、2人に1人ががんにかかる時代。これまでがんにかかったことのない人も、人生のどこかで、一定の確率で、がんにかかるからです。

 ◆風邪が「治る」のとは違う

 もちろん、通院終了のタイミングを、便宜上、「治る」と定義することは可能です。しかし、それは「すり傷が治る」とか「風邪が治る」といったときに使う「治る」とは、意味がやや異なるのです。

 ちなみに、がんに対して「寛解」という言葉を使うことがありますが、これも「治る」とは意味が異なります。

 国立がん研究センター「がん情報サービス」では、「寛解」について、「一時的あるいは永続的に、がん(腫瘍)が縮小または消失している状態のことです。寛解に至っても、がん細胞が再びふえ始めたり、残っていたがん細胞が別の部位に転移したりする可能性があるため、寛解の状態が続くようにさらに治療を継続することもあります(原文まま)」と説明しています。

 「治った」とは言い難い、微妙な状況が、この文章で説明されているのです。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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