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がんなどの病気を治療しながら、「できるだけ働き続けたい」と考える人は多い。企業側もそれを認めながら、上司の不適切な一言がきっかけで社員が去ってしまうことがある。「上司に伝えると、自分のキャリアが終わるかもしれない」という不安も大きい。治療と仕事を両立するために大事なことは、上司と部下の対話だ。
がんになっても就労を望む
3月、国際女性デーに向けた取り組みの一つとして、治療も仕事もあきらめない働き方を考える企画(ヤンセンファーマ主催)が東京都内で開かれた。女性がテーマだが、男性の場合にも当てはまる。
厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、がん治療をしながら働いているのは44万8000人。このうち女性が26万2000人、男性が18万6000人で、女性の方が多い。同省の委託事業(13年度)の調査結果では、病気を抱える労働者の92.5%が就労の継続を希望していた。23年時点で、この割合はもっと上がっているとみられる。
タレント・エッセイストの小島慶子さん
◇制度、態度、風土
エッセイスト・タレントの小島慶子さんは、元キーテレビ局のアナウンサー。育児休業を経て職場に復帰しようとした時にパニック発作や不安に苦しむようになった。職場は当惑したらしい。「育児ノイローゼみたいだね」とか「これどうするの?」といった声も聞こえてきた。
小島さんは、企業が設ける「制度」、上司や同僚らの「態度」、「風土」の三つが重要だと指摘する。「制度を整えても、猛烈に働く人だけを評価する企業風土では駄目だ。がんなど病であることを伝えると、戦力外通知をされてしまう。だから『病気になっても言わないようにしよう』と考えてしまう」
小島さんにとって幸いだったのは、社内に理解者がいたことだ。番組のプロデューサーは「ああ、そうなのですね。分かりました」と受け入れ、接する態度も以前と変わらなかった。「私にとって安心できる材料になった」と振り返る。
◇対話に至らず退社も
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループで統括産業医を務める岡原伸太郎さんは「上司に話すところまでに至らず、退社してしまう人がいる。上司と部下の対話が大事だ」と話す。企業の支援制度について「治療しながら就労継続を望む人たちの事情は千差万別であり、テーラーメードの制度をつくることは難しい。制度をテーラーメードで運用していく方がよい」とアドバイスした。
対話のシミュレーションをまとめた図
◇シミュレーションで考える
この企画では、2人一組で社員と上司の役を演じるシミュレーションが行われた。用意されたシナリオは三つだ。
①不妊治療と仕事を両立させたい社員 ②がん治療をしながら働く部下を持つ上司
部下の見た目は何も変わらないので、体調に問題はないはず。復職してやる気満々なはずだ―と考えている。「大丈夫だよね?」とあいまいな表現で尋ね、週3回は出勤するように部下に言う。
③がん治療をしながら働く部下を持つ上司
体調や体力などを具体的に聴いた上で、休ませることを最優先に考える。休み方については部下の意向や要望を聞いたり、自分の方から提案したりする。
シミュレーションとはいえ、やりとりに熱がこもっていた。終わった後の感想を紹介する。
「『チームでカバーできるような職場にしていこう』と受け止めてくれた。うれしかった」
「『話してくれてありがとう。チーム全体でサポート態勢を考えよう』と言ってもらえ、安心した」
これらは上司が適切な対応をした例だ。一方、逆のケースも見られた。不妊治療の頻度と具体的な治療内容を問いただされた部下役の参加者は言った。
「自分が周りの空気を乱しているような感じだった。治療をしていることは悪なのだろうか」
シミュレーションの結果は今後の参考にするため、「グラフィックレコード」としてまとめられた。
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