治療・予防

眠りの良し悪し決める
~睡眠の量と質の両立(国立精神・神経医療研究センター 吉池卓也室長)~

 良い眠りとは何か。寿命延伸に寄与する睡眠の要素として、これまでは睡眠の長さが重視されてきたが、近年は睡眠の質を表す指標として、眠りで休養がとれた感覚(睡眠休養感)に注目が集まっている。年代ごとに異なる適正な睡眠量と質の関係について、国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)睡眠・覚醒障害研究部の吉池卓也室長に聞いた。

年代ごとの推奨睡眠時間

 ◇高齢者は寝過ぎに注意

 必要な睡眠時間は年代により異なる。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人は1日6時間以上、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間の睡眠を推奨している。

 「特に睡眠不足に陥りやすいのが働く世代。休日に2時間以上『寝だめ』をする人は、慢性的な睡眠不足が疑われます」

 成長期の子どもも、睡眠時間を十分に確保することが重要だ。睡眠は成長ホルモンの分泌を介して体の成長を促すだけでなく、心の安定をもたらす。「睡眠には学習を定着させる効果もあります。過度な睡眠不足は学業成績に悪影響を与えかねません」

 一方、高齢者は寝床にいる時間が1日8時間を超えると、かえって健康を損なうリスクがある。加齢で眠りが浅くなった高齢者が無理に長く眠ろうとすると、眠りが途切れやすくなる場合も。

 「日中は適度な運動や社会活動を行って活動量を増やすことが、高齢者の良い睡眠につながります」

 ◇休養感が目安に

 睡眠の質を上げるには、どの世代もまず睡眠の量を適正化することが肝心だ。その上で、睡眠休養感が良質な睡眠の目安になる。

 「必要な睡眠量には個人差があります。成人が7時間寝ても休養感が乏しい場合は、睡眠時間を増やしてみるのも一案です。逆に高齢者が8時間以上寝床にいる場合は、寝床にいる時間を減らしてみるとよいでしょう」

 こうした工夫をしても睡眠休養感が乏しい場合は、空気の通り道(気道)が狭くなる閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸症候群などが隠れている可能性もある。睡眠時間と睡眠休養感の両立を考えることは、健康障害のリスクに気付くきっかけにもなる。

 近年は、睡眠量を簡便に測定するウエアラブル端末の普及も進んでいるが、測定精度の検証や睡眠の質の客観的な定義が不十分な点に注意が必要だ。「近い将来、血圧や体重を測るように、自分の睡眠を『見える』化し、健康管理に役立てられる時代が来るでしょう」と吉池室長は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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