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高齢者に多い術後のせん妄
環境づくりにひと工夫を

 親や祖父母が入院して手術をしたら、急におかしなことを言い出し話がかみ合わなくなった、認知症になったのではないか―と心配になることがある。実はこれは認知症ではなく、高齢者に多い「術後せん妄」かもしれない。東京都健康長寿医療センター(板橋区)麻酔科の小倉信部長は「症状によっては認知症と見分けがつきにくい場合があります。せん妄の特徴を知っておくことに加え、病室の環境を整えることも有効です」と話す。

家から私物を持ち込むなど、環境に工夫を

 ▽急に出現、数日で消失

 せん妄は急激に発症する意識障害の一つで、高齢者の術後せん妄は、特に頻度が高いといわれている。「夕方から夜間にかけて症状が出やすく、自分がどこにいるのかや、日付、曜日が分からなくなる、大声を上げて暴れ点滴を抜いてしまうなど、症状はさまざまです」と小倉部長は説明する。

 一見すると認知症の症状と似ているが、大きく異なるのは、せん妄は一時的だという点だ。手術直後や翌日に突然症状が表れ、数日で消えていく。

 「手術などの大きなイベントがせん妄の引き金になると言われ、特に心臓手術は脳への血流に影響が出やすく、せん妄が起こりやすいとされています。70歳以上の高齢者、認知症貧血のほか、習慣的な大量の飲酒、向精神薬や睡眠薬などの薬もせん妄の誘発要因ですが、詳しい発症メカニズムは分かっていません」

 ▽医療者と一緒に対処を

 術後のせん妄は、病気そのものの治りを悪くするばかりでなく、一度発症すると、高い確率で再発する恐れがある。そのため、たとえ症状が軽くても、きちんと対処することが必要だという。

 「病室の環境を自宅に近いものにするのも一案です。本人が家で使っている湯飲みなどの私物を用意する、家族の付き添いや面会をできるだけ増やす、カレンダーや時計を目に付く所に置くといった配慮が効果的です」と小倉部長。家族も事前にせん妄の情報を得ておけば、慌てずに接することができるという。

 小倉部長は「術後のせん妄には、大声を出すなどの活動性の高いものと、逆に反応が鈍く眠ってばかりいるといった活動性の低いものがあります。術後の痛みや合併症といった身体的な苦痛でも起こるので、医療者側と家族が一緒になって対応策を考えていく必要があります」と強調している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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