女性アスリート健康支援委員会 失敗から学んだ女子指導の鍵

成長の瞬間追い求め
十人十色の選手、栄養管理にも工夫―柳本晶一さん

 スポーツ指導者の役割とはどんなものだろう。2003年から08年までバレーボール全日本女子チームの監督を務めた柳本晶一さんは、人さし指と中指で「Vサイン」をつくって説明する。

 2本の指に指を添え、指導者の役割を説明する柳本晶一さん

 「2本の指を自力でぐっと広げても、限界があります。でも誰かが内側から指を軽く添えるだけで、もっと開きます。指導者は、そんな存在やと思うんですね」

 柳本さんは新日鉄のセッターとして活躍し、1976年のモントリオール五輪に出場。その後は新日鉄や女子の東洋紡で監督を務めてチームを優勝に導くなど、指導者としても30年近くを第一線で過ごした。

 その間に、選手は体も心も「十人十色」ということを痛感した。

 「スタートラインに並べたとしたら、同じ時間内で1メートルしか進まない子がいれば、3メートル進む子もおります。ポーンと10メートル行く子もたまにおるんですね。それが僕らの言う『超高校級』とか『10年に1人の逸材』。でも、1メートルの子も3メートルの子も10メートルの子も、必ず『伸びる瞬間』が来ます。諦めずにやっとったら」

 ◇能力の「差」理解し、粘り強く

 成長を遂げる瞬間。これをしっかり見てあげることも指導者の大事な務めだと柳本さんは言う。

 全日本女子の公開練習でトスを出す柳本晶一監督(当時)=2004年4月、東京都渋谷区の東京体育館

 「たとえば1メートルしか進まない子が半年ぐらい必死に頑張って、やっと伸びる瞬間が来たら『そら、できたやないか』と。伸びた瞬間に指導者が声を掛けて、鏡に映し出してやらんと駄目やと思うんです」

 そうすることで、選手のモチベーションはさらに刺激される。

 「だから僕、現場で指導している時に一度もベンチに座ったことがないですよ。20人ぐらい選手がおるから、伸びた瞬間に『それや!』と言ってやるためには、いろんな角度から見ていないと駄目ですから」

 練習中は携帯電話が鳴っても出なかった。

 「選手が半年も一生懸命やってきて、できなかったことをやっとできた瞬間に、『もしもし』とやったら見逃しちゃいますよ。僕が見逃した瞬間というのは、その選手にとって一生に一度のものかもしれない」

 指導とは、選手の能力には「差」があることを前提に粘り強く続け、成長曲線がカーブを描く時を待つ作業でもある。

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