「医」の最前線 地域医療連携の今

在宅でも可能な疼痛コントロール
~侵襲少なく安全な持続皮下注射~ 【第22回】訪問診療の医療連携② にのさかクリニック 二ノ坂保喜理事長

 身体機能が低下して通院ができなくなったり、治癒が困難と診断されたりしても、住み慣れた場所で過ごしたいと願う人は多い。そんな願いを可能とするのが在宅医療だ。がん患者が在宅で生活する上で心配になる疼痛(とうつう)についても、医療用麻薬の進歩によりコントロールがしやすくなった。にのさかクリニック(福岡市早良区)の二ノ坂保喜理事長は「医療用麻薬を用いることで、在宅でも痛みのコントロールは可能」と話す。

突発的な痛みを感じた時に患者自身がボタンを押すことで痛みを緩和できる

 ◇持続皮下注射で医療用麻薬を投与

 在宅医療には患者の要請に応じて、患者宅に計画的、定期的に訪問して診療を行う「訪問診療」と、その都度患者宅を訪問して診療を行う「往診」とがある。厚労省のデータによると、往診を受ける患者の数は横ばい状態であるのに対して、訪問診療を受ける患者の数は大幅に増加傾向にある。その中でも大半を占めているのが75歳以上の高齢者だ。

 にのさかクリニックでは、疾患や年齢などにかかわらず、在宅での診療が必要な患者を対象にした訪問診療を行っている。定期的な診療のほか、痛みのある患者への緩和ケアやみとり支援に関しては、365日24時間体制で患者やその家族を支えている。

 「がんの患者さんであれば、やはり痛みの緩和が中心になります。今は痛みに対する医療用麻薬がとても進歩しているのでコントロールもしやすくなりました。当院の特徴の一つは、痛みの緩和にモルヒネの持続皮下注射を用いていることです」

 持続皮下注射とは、注入器に入った微量の薬剤(医療用麻薬)を持続的に皮下に注入する投与法のことで、プラスチックの針を患者の胸部などの皮下に留置、固定する。これによって、医療用麻薬を安全に、効果的に投与することができる。

 がんの痛みに対する薬剤には、「塩酸モルヒネ」「フェンタニル」「オキシコドン」といった医療用麻薬があり、静脈に注射器で投与するタイプのものから、錠剤、粉末などの経口薬、肛門から入れる座薬、皮膚に貼るタイプなど、患者の病態に応じて使い分けることができる。

 現在、にのさかクリニックでは、多い時には3人から5人の患者がモルヒネの持続皮下注射を受けているという。

 「皮下に入れるので調整しやすく、痛みを生じたり、抜けたりすることもほとんどありません。もし抜けた場合でも、すぐに痛みが出ることはなく、慌てることはありません。血管や皮膚を傷つけることもありません」

 持続皮下注射は侵襲が少なく、安全で簡便に使用できるほか、投与量の変更を迅速に行うこともできるという。また、注入器には自己調節鎮痛(PCA)機能が備わっているため、突発的な痛みを感じた時には、患者自身がボタンを押してモルヒネを投与することで痛みを緩和することもできる(薬剤の設定や注入回数などは患者や家族が勝手に変えることができないようになっている)。

 「胃がんや消化器がんなどで身体状態が低下している患者さんの場合には、内服だと薬が十分に吸収されないこともあります。静脈注射の効果には及びませんが、持続皮下注射はそれに近い効果が期待されます」

 ◇患者の体と心の痛みに寄り添う

 在宅医療は、まだまだ知られておらず、誤解されていることも少なくない。緩和ケアというと、緩和ケア病棟で終末期に行われるものといったイメージを持つ人も多いが、緩和ケアは本来、病気の進行には関係なく、がんであれば診断時から取り入れられることが推奨されている(がん対策基本法)。

 また、日本では主にがん患者に対して行われているが、海外では疾患を問わないとされている。ホスピス・緩和ケアは、身体面の苦痛や精神面の苦痛と共に、社会経済的な苦痛、それにスピリチュアルな苦悩などを総合的に捉えて行われるもので、その意味でも在宅でのケアが重要と思われる。

 「病気が治らないと分かった時、そこから患者さんの苦しみが始まります。医療は、本来病気を治すために行われる行為です。治らないということは、もう医療が及ばないということを意味しています。しかし、治すための医療はできなくても、苦しみを和らげる医療やケアとしては、いろいろなことができるのです」

 中には、治療を受けていた病院で「終診」を告げられ、「全面的に緩和ケアに移行します」と冷たく書かれた紹介状を持って二ノ坂医師のもとを訪れる患者もいるという。

 「終診というのは、もう治療することがないということです。患者さんは当然、苦しみますし、がんの末期だったら治療ができなくなっても、そこから苦しみはどんどん増していきます。しかし、緩和医療でできることは決して少なくありません。病気の苦しみや、命が限られている人の苦しみに寄り添い、ケアを行うのが緩和ケアやホスピスの役割なのです」(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

【関連記事】

「医」の最前線 地域医療連携の今