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女性の乳がん、9人に1人
~早期発見と予防のために~ 【第7回】

 乳がんは女性にとって最も身近ながんで、日本人では9人に1人が生涯のどこかで発症する可能性があります。初期段階では自覚症状がほとんどなく、比較的ゆっくり進行するのが特徴です。しこりが小さいうちは治癒率が高く、早期発見と予防が重要になります。

 このコラムでは、乳がんについて知っておくべきこと、早期発見・予防のための具体的な方法、生活習慣改善のヒントなどを分かりやすく解説します。人ごとと思わず、自分自身を守るために、ぜひ参考にしてください。

初期の乳がんは自覚症状がほとんどない(イメージ画像)

 ◇30代後半から発症率上昇

 乳がんは乳房にできる悪性腫瘍で、乳腺組織を構成する細胞が異常に増殖することで発生します。多くは乳管から発生する「乳管がん」ですが、小葉から発生する「小葉がん」も見られます。

 初期は自覚症状がない上、しこりも小さいため、自分で触っても気付きにくい場合があります。しかし、早く発見できれば治療の選択肢が広がります。治癒の可能性も高く、5年相対生存率は90%を超えるとされています。

 乳がんのリスクは40代でピークを迎え、50代以降も高いリスクが続きます。30代後半から発症率が上がり始めるため、30歳を過ぎたら本格的にリスクと向き合う必要があります。

 年齢以外のリスク要因としては、次のようなものが挙げられます。

 1. 家族歴(特に第一度近親者=両親、兄弟姉妹、子ども=に乳がん患者がいる場合)
 2. 遺伝的要因(細胞のがん化を抑えるBRCA1やBRCA2遺伝子の変異など)
 3. ホルモン関連要因(早い初潮、遅い閉経、出産経験がないなど)
 4. 生活習慣(肥満運動不足、過度の飲酒など)

 ただし、これらがなくても乳がんを発症する可能性があることを認識しておきましょう。

40歳以上の女性は2年に1回のマンモグラフィー検査を受けたい(イメージ画像)

 ◇検診2年に1回、自己チェックも欠かさずに

 早期発見に向け、日本では40歳以上の女性を対象に2年に1回のマンモグラフィー検査が推奨されています。目に見えない小さながんを発見するため、乳房のX線撮影を行います。

 若年層や乳腺密度の高い女性には超音波検査(エコー)も有効。マンモグラフィーで見つけにくい病変を発見するのに役立ちます。

 医療機関での定期検診に加えて、普段から乳房を意識して日常生活を送る「ブレスト・アウェアネス」という考えがあります。例えば入浴時に次のようなことに注意してみてください。

 ● しこり(最も一般的な症状
 ● 乳房の痛み
 ● 乳房の形や大きさの変化
 ● 乳頭からの分泌物
 ● 乳房の皮膚の変化(赤み、腫れ、ただれなど)
 ● 乳頭や乳輪の変形

 症状の有無は①鏡の前で両腕を上げたり、下ろしたりする②指の腹を使って乳房全体を満遍なく触る③乳頭を軽く押す―といった方法で確認します。

 乳がんは男性でも発症する可能性があります。全乳がんの1%程度とされていますが、男性の場合、認識の低さから発見が遅れがちです。男性も胸部の変化には注意が必要です。

 ◇手術・放射線・薬物で治療

 乳がんの治療法は、がんの進行度や種類、患者の年齢や体調などによって異なります。主な治療法には次のようなものがあります。

 1. 手術:乳房温存手術や乳房切除術など。
 2. 放射線:がん細胞を死滅させるために放射線を照射。
 3. 薬物:
  ● 化学療法:抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑制。
  ● ホルモン療法:ホルモン受容体陽性の乳がんに有効。
  ● 分子標的薬:特定のタンパク質や遺伝子を標的とした薬剤を使用。

 早期に発見された場合、乳房温存手術と放射線療法の組み合わせなど、体を傷付ける度合いがより少ない治療法を選択できる可能性が高まります。

 ◇重要な生活習慣見直し

 乳がん予防のためには、次のような生活習慣の改善が効果的です。

 ● バランスの取れた食事:タンパク質を中心として、野菜や果物もバランス良く摂取。
 ● 適度な運動:週150分以上の中強度の有酸素運動を推奨。
 ● 適正体重の維持:肥満乳がんのリスクを高めるため、適正体重を維持。
 ● 飲酒管理:過度な飲酒の回避。
 ● 禁煙:喫煙で乳がんを含む多くのがんのリスクが増大。

 乳がんは定期的な検診とセルフチェック、そして健康的な生活習慣を心掛けることで、リスクを大幅に減らせます。何か異変を感じたら、ちゅうちょせずに医療機関を受診しましょう。

 正しい知識を身に付け、自分自身の健康に関心を持つことが乳がん予防の第一歩です。このコラムで得た情報を活用し、積極的に取り組んでいただければ幸いです。より詳しい情報については、国立がん研究センターや日本乳癌学会の公式ウェブサイトを参照してください。(了)

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、診察室での患者とのやりとりや女性医療の正しい知識をインスタグラムで毎週配信している。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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