女性特有のがん、早期治療が要
~ガイドラインで正しい情報を~
女性特有のがんである、子宮頸(けい)がん、子宮体がん、卵巣がん。定期検診やセルフチェックなどで早期発見すれば完治が可能なものもある。早めに対処するにはどうしたらいいか。がんと分かったとき、どんな治療を選べばいいのか。正しい情報を得る一助となる「治療ガイドライン」委員の医師に話を聞いた。
女性の内性器。どの部分にできるかで、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんに分類する
◇子宮頸がん、検診とワクチン接種が必須
子宮頸がんは、子宮の出口に近い頸部という部分にできる。発症は30~40代に多いと言われていて、原因はヒトパピローマウイルス(HPV)だ。主に性交渉によって感染する。
最近の状況などについて、杏林大学医学部産科婦人科診療科長で、がんセンター副センター長の小林陽一医師は「初交の低年齢化に伴い、若年層の患者が増えている」と指摘する。
早い段階で見つかれば死亡率は低い。「早く見つけるには定期的な検診が大切」と同医師は言うが、日本は子宮頸がん検診の受診率が低く、2023年の時点で43.7%にとどまる。欧米諸国は70%以上だ。
さらに、発症原因の半分以上を防ぐことができるHPVワクチンの接種率は大きく見劣りする。20年までにカナダや英国、オーストラリアなどが約8割となったのに対し、日本はわずか1.9%にすぎない。小林医師は「世界保健機関(WHO)も接種を推奨し、30年までに子宮頸がんの死亡率を30%減らすことを目標にしている。日本も普及と啓発に一層取り組まなくてはならない」と強調している。
◇子宮体がんは治療後の生活習慣に注意
子宮体がんは子宮内膜のがんで、エストロゲンという女性ホルモンの長期間にわたる作用による。閉経前後の40代後半から増え始め、発症のピークは50〜60代。欧米では頸がんより多いとされていて、日本でも増加傾向にある。代表的な自覚症状として不正出血が挙げられる。
原因について、小林医師は「エストロゲンは脂肪の中でも作られることから、肥満が子宮体がんを発症しやすくすると考えられている。患者が増えているのは、食生活の欧米化が理由の一つだろう。そのほか高血圧、糖尿病、少産や未産、月経不順の人もリスクを持っていると言える」。
体がんも、早期に発見・治療ができれば完治が見込める病気だ。日本産科婦人科学会によると、14年登録患者における、がんの進行度合いを示す「ステージ」Ⅰ期の5年生存率は94.5%に上る。しかし、治療開始後10年が経過したあたりから、心臓病による死亡率が上昇するという報告がある。同医師は「体がんの患者は、メタボリック症候群など生活習慣病の持病があることが多い。がん治療後の生活習慣の改善が重要になってくる。担当医はかかりつけ医との連携を取りながら指導をしていくことが望ましい」と言葉を強めた。
「HPVは男性も感染し、咽頭・喉頭がんなどに関係する。HPVワクチン接種が今後、男性にも広まればいい」と小林陽一医師
◇最新治療受けられる卵巣がん
「卵巣がんも患者がじわり増えてきている」と小林医師。さまざまな遺伝子の変異の積み重ねによると考えられているが、大半は直接の原因が分かっていない。最近では、一部は卵管の先端部である卵管采から発生するとされている。
卵巣がんは有効な早期スクリーニング法がなく、初期の症状にも気づきにくい。発見・診断時にはすでにがんが進行していることが多いという。
ただ、一部の人は遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子とされている遺伝子の変異で発症することが分かっていて、家系内にこれらの患者がいる場合は、年齢を問わず注意が必要だ。米俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが13年、該当する遺伝子に異常があると分かったため、両乳房の予防的切除を受けたことは記憶に新しい。
小林医師は「遺伝子変異が見つかった場合、ショックは大きいと思う。だが、その変異の内容でがんを区別し、適切な治療法、効果のある薬が見つかる可能性がある」と説く。遺伝子の修復作用を阻害してがん細胞を消滅させるPARP阻害薬といった「分子標的治療薬」や、体内の免疫細胞の働きにブレーキがかかることを阻止し、がん細胞への攻撃を活性化させる免疫チェックポイント阻害薬などを用いた最新の治療方法を受けられるようになってきており、同医師は「治る可能性がだんだん高まってきていると言っていい」と話す。
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(2024/03/07 05:00)