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HPVと子宮頸がん
~予防と検査の重要性~ 【第8回】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、現代社会ではごく一般的なウイルスです。子宮頸(けい)がんをはじめとする多くのがんの原因となることが知られており、特に女性の健康に大きな影響を与える可能性があります。この記事では、予防法や検診の重要性を含めて詳しく解説します。HPVについての正しい知識を持ち、自身の健康を守っていきましょう。
HPVは性交経験のある女性の8割が感染する(イメージ画像)
◇性体験ある女性の8割が感染
HPVは皮膚や粘膜に感染するウイルスの一種で、主に性的接触を通じて感染します。性体験のある女性の約80%が50歳までに感染すると言われ、皮膚と皮膚の接触でも感染する可能性があります。
しかし、自覚症状がない場合が多く、感染に気付かない人も少なくありません。また、コンドームを使用しても完全には予防できないため、性的接触には常に感染リスクが伴うと考えられています。
HPVには200種類以上の型が存在し、そのうちの約40種が生殖器に感染します。これらは大きく分けると次の二つのグループになります。
1. 低リスク型:主に良性の病変(性器いぼなど)を引き起こす。
2. 高リスク型:がんを誘発する可能性がある。特に型16と18は子宮頸がんの主な原因となる。
◇数年から数十年で発症
HPVはさまざまな疾患の原因になります。特に注目すべきは、がんとの関連性です。子宮頸がんの原因の99.7%はHPV感染が関与していると言われており、最大のリスク因子です。感染により尖圭(せんけい)コンジローマという性器のいぼができることもあります。
感染しても、90%以上が2年以内に自然に排除されます。しかし、一部の高リスク型HPVの感染が長期間持続することで、最終的にがんを発症する可能性があります。HPV感染から子宮頸がん発症までには通常、数年から数十年かかります。その典型的なプロセスは次の通りです。
1. 感染:高リスク型HPVが子宮頸部の細胞に感染する。
2. 持続感染:多くの場合、HPVは自然に排除されるが、一部のケースでは感染が持続する。
3. 前がん病変:持続感染により、子宮頸部の細胞に異常が生じ始める。この段階を前がん病変と呼ぶ。
4. がん化:前がん病変が進行し、がん細胞に変化する。
前がん病変の段階で発見して適切な処置を行えば、がんになるのを防げると考えられています。
◇ワクチン接種でリスク低減
感染を防ぐための効果的な方法の一つがHPVワクチンの接種です。日本では現在、小学6年生から高校1年生相当の女子を対象に、公費負担での定期接種が可能となっています。
ワクチンには2価(サーバリックス)、4価(ガーダシル)、9価(シルガード9)の3種類があり、いずれも高い予防効果を確認済み。これらは最も発がん性の高いHPVの型(特に16型と18型)に効き目があります。同じ種類を2〜3回接種する必要があり、接種のタイミングや回数はワクチンの種類や年齢によって異なります。
接種によりHPV感染のリスクを大幅に減らせますが、すべての型に対して効果があるわけではありません。また、すでに感染している型には効果がないため、性行為前の接種が理想的です。ワクチン接種後に痛みや腫れ、発熱などの副反応が出る場合もあり、接種前に医師とよく相談することが大切です。
定期的に子宮頸がん検診を受けたい(イメージ画像)
◇検診の受診率低く
ワクチンを接種した人も定期的に子宮頸がん検診を受けましょう。子宮頸がんは早期発見・早期治療が可能であり、検診により前がん病変の段階で発見できます。
日本では、20歳以上の女性に2年に1回の検診が推奨されています。自己負担の費用は500〜1000円程度が一般的です。また多くの自治体では、20歳以上の偶数年齢など、ある年齢の人を対象にした無料検診の機会が設けられています。
しかし、日本の検診受診率は約40%と、欧米諸国の約80%に比べて低い状況です。理由としては、検診の重要性への認識不足や恥ずかしさ、痛みへの不安などが挙げられます。
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(2024/07/31 05:00)