こちら診察室 女性医療現場のリアル〜悩める患者と向き合い、共に成長する日々〜

「自分らしさ」守る女性医療を目指して

 沢岻美奈子女性医療クリニック院長の沢岻美奈子です。「女性医療現場のリアル」と題し、婦人科を受診する患者さんの不安や疑問の解消を目指すコラムを連載していきます。

 日々の診療に当たっては、「その人らしさ」を尊重し、一人ひとりに寄り添う対応が重要だと考えます。恥ずかしさから言い出せない悩み、他の患者さんの状況、症状の一般性など、皆さんにとって有用とみられる情報を、婦人科の医師そして一人の女性として率直にお伝えします。ぜひお付き合いください。

自分らしさや幸せを取り戻す(イメージ画像)

 ◇子宮頚がん治療後も輝ける

 年間約3万人が受診する神戸市の子宮がん検診。当院でも行っており、進行した子宮頸(けい)がんが発見される場合があります。子宮頸がんは約10年かけて徐々に進行するため、2年ごとの定期的な検診で、がんに移行する前の「異形成」の段階で見つけることができます。この段階であれば、適切な治療や経過観察によりがん化を防げるのです。

 子宮頸がんの主な原因は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは多くの人が一度は感染するものの、ほとんどの場合、免疫力によって自然に排除されます。しかし、一部の高リスク型HPVに持続感染すると、異形成を引き起こしたり、がん化したりします。性行為によって感染リスクが高まるので、多くの女性ががん治療後、性生活に対する不安や心理的な負担を抱えます。

 40代前半の女性のケースを見ていきましょう。この女性は30代の時に子宮頸がんと診断され、大学病院で子宮と卵巣を摘出しました。術後は放射線治療や化学療法は行わず、経過観察を続けました。再発がなければ5年後に治療が終了するという状況でした。

 その後、彼女は「かゆみ」を訴えて来院。診察の際に子宮頸がんを乗り越えた経験についても伺いました。その中で「セックスはしていません。できないと思っていました」と語っています。治療後、自分から性生活を諦めてしまっていたのです。

 こうした思い込みで自分の人生を制限しているのだとすれば、非常にもったいないと感じました。子宮頸がんの治療後でも、適切なケアとサポートを受ければ、女性としての「自分らしさ」や「幸せ」を取り戻すことは十分に可能なのです。

 ◇情報不足で悩む患者

 卵巣を摘出すると、女性ホルモンの分泌が急激に減少します。減少は術後の数年間にわたって続き、膣(ちつ)や外陰部にさまざまな影響を与えることがあります。

 特に大きな影響として、膣や外陰部の乾燥や弾力性の低下が挙げられ、これにより硬化が進みます。これが性交時の痛みやかゆみの原因となり、日常生活や性生活に大きな負担をもたらす場合があります。

 こうした症状に対しては、飲み薬や塗り薬などのホルモン補充療法(HRT)や、膣用の保湿剤の使用など、定期的なケアが有効であることが多いです。しかし、多くの患者さんは不快な症状を抱えながらも適切な治療方法を知りません。そのため、婦人科クリニックとして正しい情報を提供し、適切な治療法を提案することが重要だと考えているほか、一人で悩む前にささいなことでもいいので相談してほしいと感じています。

 子宮頸がん治療後も、女性らしさや生活の質を維持できるようサポートすることが、患者さんのより良い生活のためには不可欠なのです。しかし、現在の婦人科医療においてはサポートが十分とは言えない現実も存在します。支援体制の充実が医療現場の新たな課題です。

女性に対する支援体制の充実が課題(イメージ画像)

 ◇求められる支援充実

 卵巣摘出や閉経による女性ホルモンの減少は、骨密度の低下を招き、骨粗しょう症のリスクを高めます。骨粗しょう症は進行するまで気付きにくい病気ですが、軽い転倒や衝撃でも骨折しやすくなったり、背中や腰に慢性的な痛みを感じたりと、日常生活に大きな支障を来して寝たきりの原因になります。骨の健康を守るためには、定期的な骨密度検査と予防が非常に重要です。

 そして、子宮頸がん治療後のホルモン補充療法は、医学的にも安全性が高いとされており、再発を過度に心配せずに受けられます。膣や外陰部の乾燥、性交痛、骨密度の低下など、ホルモン不足に伴う症状を緩和し、患者さんの生活の質を向上させる重要な役割を果たしてくれるでしょう。

 同がんの治療後に多くの女性が経験する膣や外陰部の乾燥・痛み・不快感を軽減するための施術、モナリザタッチもあります。炭酸ガスレーザーを使って膣の内壁に微小な刺激を与え、コラーゲンの生成を促進する治療です。これによって膣組織が再生され、弾力や潤いが回復していきます。痛みも少なく、短時間で終了するため、患者さんの身体的負担が少ないのも大きな利点です。

 2人に1人ががんになる時代、女性らしさをサポートする体制が大切だと私は考えています。これからもサバイバーの皆さんが自分らしさを取り戻し、少しでも快適に過ごせるよう支援を続けていきます。(了)

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、診察室での患者とのやりとりや女性医療の正しい知識をインスタグラムで毎週配信している。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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